── バフェット後のバークシャーに学ぶ“待つ力”と投資戦略の極意
- 第1章|なぜバークシャーは“史上最大級の現金ポジション”を積み上げ続けているのか
- 第2章|マーケットが割高だから?しかし理由はそれだけではない
- 第3章|孫子が説く“勝つべくして勝つ者”と、バークシャーの現金戦略
- 第4章|なぜAlphabetだけ買ったのか?バリューとグロースを両立する新時代へ
- 第5章|日本商社株を買い増す理由
- “インフレに最も強い、実物アセット型ビジネス”だから。
- ● PBR1倍以下からのリバリュー(再評価)
- ● なぜ今、日本商社に“追加投資”をしているのか?
第1章|なぜバークシャーは“史上最大級の現金ポジション”を積み上げ続けているのか
まず、今回のテーマで最も重要なのは次の一点です。
バークシャー・ハサウェイは、2025年時点で
現金・Tビル(米国短期国債)を合わせて“3,000億〜3,800億ドル”という
史上最大級の現金ポジションを保有している。
米国企業でここまで現金を持つ企業は他にありません。
もはや国家レベル。FRBに並ぶ規模としてニュースにもなりました。
この“異常なほどの現金の山”を築きながら、
株式市場は史上最高値更新を続ける局面にもかかわらず、
バークシャーは驚くほど落ち着いています。
普通ならこう考えますよね。
「キャッシュが山ほどあるんだから、株をもっと買えばいいのに?」
「割高でも買わなきゃ機会損失じゃない?」
「アップルを売ってアルファベットを買ってるけど、もっと動けば?」
でも——
実際のバークシャーは「ほとんど買っていない」。
アップルやバンク・オブ・アメリカを売り、
日本商社を少し買い増して、
Alphabetを数十億ドル買ったくらい。
相場は全面高、AIバブルと言われ、
S&P500は史上最高値圏。
それでも焦って株を買いに行かない。
ここに バークシャーの本質 と “バフェット後”の戦略” が詰まっています。
● バークシャーはなぜ現金を積み上げたのか?
理由は3つあります。
① 市場の割高感(valuation risk)
S&P500の予想PERは20〜22倍。
ナスダック100は27〜30倍。
大型テックはAI期待で押し上げられ、
ネットキャッシュ調整後の実質PERはさらに高い。
バークシャーは、
「割高な市場で無理に買わない」
という哲学が一貫しています。
② 金利・債券環境が“現金の相対的魅力”を押し上げた
短期米国債の利回りが3〜5%。
Tビルで安全に金利が取れるなら、
株式のリスクをわざわざ取る必要もない。
③ バフェット後の体制への“現金の贈り物”
後任であるGreg Abelに、
「自由に動けるキャッシュの山」を残す。
これはバフェットなりの合理的な遺産です。
● Appleを売り、BoAを売り、Alphabetを買った意味は?
アップルの比率が高すぎたことでポートフォリオの歪みを嫌い、
銀行株は金利・規制リスクで軽量化し、
AI・クラウドが伸びるアルファベットだけは買い増した。
これは、
守備的でありながら成長をあきらめないバランス戦略。
つまり、
「守りのための現金+必要な部分だけ成長株を取る」
という極めて合理的な布陣なのです。
第2章|マーケットが割高だから?しかし理由はそれだけではない
さて、株を買わない理由を
「マーケットが割高だから」とだけ説明する論者は多いですが、
CPははっきり断言します。
バークシャーが焦らない本当の理由は
“割高だから”という単純な話ではありません。
もっと構造的で、もっと深い。
その理由を順に見ていきましょう。
● 理由①:2025〜2027年へ向けて「不確実性の3連コンボ」が控えている
AIバブルの中で市場は強い。しかし、
バークシャーは“すぐ後ろに来ている3つの波”を冷静に見ています。
- 金利の高止まり
- 企業利益の伸び鈍化
- 地政学ショック(選挙・中東・アジア)
特に商社や実物資産を押さえ始めている背景には、
この地政学要因が大きい。
● 理由②:Appleのリスク構造の変化を理解している
- 生成AI競争
- EU規制強化
- iPhone依存度の高さ
- 製造リスク(サプライチェーン地政学)
これらを総合的に見て、
「持ち過ぎは良くない」
と判断したのがアップル売却の本質。
● 理由③:バンク・オブ・アメリカの“逆風”を見抜いた
銀行株には次のリスクが常に付きまとう。
- 金利差益の縮小
- 不動産ローンの焦げ付き
- 商業不動産の不良債権リスク
- 規制強化
バークシャーは単に金利で買うのではなく、
「信用サイクルの変調」を読んで
ポジションを落とした形です。
● 理由④:市場に“価格のゆがみ”が増えている
AI関連は割高、
伝統産業は割安、
商社は再評価されつつあるがまだ伸びしろがある。
つまり、今は
「割高と割安の差が最大に広がっている時期」
であり、
バークシャーはその“ゆがみの修復”を待っている。
● 結論
バークシャーは“割高だから買わない”のではなく、
“割安になる局面を待っている”。
これは孫子の
「勝ちて戦いを求む」
そのもの。
先に勝てる状態(=キャッシュ)を作り、
勝てる場所(=暴落局面)を待っているのです。
第3章|孫子が説く“勝つべくして勝つ者”と、バークシャーの現金戦略
バークシャーの現在の姿勢を理解するうえで、
最も本質を突いているのが、孫子のこの言葉です。
「勝つべくして勝つ者は、先ず勝ちて而る後に戦いを求む」
つまり、
「勝てる準備を完璧に整えてから戦う」
という意味です。
逆に、準備もなく焦って戦いに出れば、勝てるものも勝てない。
この思想は、バークシャーの“現金戦略”と完全に一致します。
● バークシャーは「弾薬」を満タンにしている
現金+Tビル=3,000〜3,800億ドル。
これは投資の世界でいうところの、無限弾薬庫です。
一般のファンドなら、
- キャッシュを持ちすぎている
- 早く投資しないと顧客の評価が下がる
- 市場に置いていかれる恐怖
などがあり、どうしても投資を急ぎます。
しかしバークシャーには、
- 顧客からの短期資金流出がない
- 保険のフロート資金が毎年積み上がる
- 独立系で誰にも縛られない
- 長期で動ける
- とにかく現金が多い
という“圧倒的な構造的優位”があります。
つまり、
焦らなくていい体質を持っている。
この強みは、個人投資家であるとすさんにも大きく関係します(後述)。
● バフェット後のAbel体制を考えると「現金は最大の遺産」
バフェットは今年で前線を退き、Greg Abelへと権限が移ります。
Abelは
- エネルギー
- 物流
- 産業インフラ
など実業のプロフェッショナル。
そんな次期CEOに対し、バフェットが残すのが
「自由に使える3,000億ドルのキャッシュ」
これは投資家の中で最大の贈り物です。
言い換えるなら、
“次の30年に備えた、巨大な余力”
を残したということ。
バークシャーの“焦って株を買わない理由”は、
ここまで読めば明確です。
第4章|なぜAlphabetだけ買ったのか?バリューとグロースを両立する新時代へ
全体としては守備的なバークシャー。
しかし、1つだけ例外があります。
Alphabet(Google)だけは新規で大きく買っている。
これは「慎重なバークシャーの中の攻め」。
ここには深い戦略があります。
● アルファベットは“取り逃がしたテック”だった
バフェットは過去にこう言っています。
「Googleを買わなかったのは私のミスだ。」
AmazonやGoogleを見逃した後悔はずっと語られてきました。
しかし今回:
- AI需要
- YouTube広告
- Google Cloud
- 基本インフラ化
など、長期的に収益源が明確な企業として、
ようやく納得のいく価格帯に来た と判断した可能性があります。
● 「高成長なのにキャッシュフローが安定」
Alphabetの特異性
アルファベットはグロース株なのに、
実質は 高利益・高CFのバリュー株 に近い性質があります。
- 無借金経営
- GAFAMの中で随一の利益体質
- 価格支配力が強い
- 景気に左右されにくい
バークシャーが買わない理由が逆に見つからない企業です。
● ドミノピザへの追加投資も「高回転・軽資本」狙い
- インフレ耐性
- フランチャイズモデル
- 資本が軽い
- ROE・CFが高い
- “人間の小口消費は不況でも続く”
バークシャーらしい投資の復活と言えるでしょう。
これらをまとめると、
バークシャーは“守りつつ攻める”という超長期戦略に入った。
第5章|日本商社株を買い増す理由
── インフレ時代の最強アセット
日本への投資を続けている点も、
焦らない理由の一つとして非常に大きいです。
バフェットは何度も言いました。
「日本の商社株は20年、30年保有する価値がある。」
その理由を一言で言うと、
“インフレに最も強い、実物アセット型ビジネス”だから。
具体的には:
● 資源(鉱物・石油・ガス)
→ 原材料高で利益が増えやすい
● 食料・農業
→ 世界人口増で長期上昇トレンド
● インフラ・物流・輸送
→ 景気変動に強い
● 金利上昇で恩恵を受けやすい債権ビジネス
● PBR1倍以下からのリバリュー(再評価)
さらに、
- 自社株買いが巨大(総還元利回り6〜9%)
- 配当も増配基調
- 経営は極めて堅実
という “日本版バークシャーモデル”。
● なぜ今、日本商社に“追加投資”をしているのか?
それは、
- 円安で割安に買える
- 資源高に強い
- 世界のサプライチェーンが再構築中
- AI・半導体の設備投資で資材・エネルギー需要が拡大
- インフレ時代に実物アセットが最重要
という世界構造の変化が背景。
つまり、
バークシャーは日本商社を“未来のコア収益源”として見ている
と言えます。
第6章|金利・債券環境が“焦らない理由”をさらに強めている
ここが最も重要な論点です。
**Tビルで3〜5%取れる時代に、
わざわざ株を高値で買う必要はない。**
バークシャーに限らず、
世界の長期投資家が同じ戦略を取り始めています。
● Tビルは“無リスクで3〜5%”
- デフォルトほぼゼロ
- 換金性は世界最強
- 短期なので金利変動リスクが小さい
資産運用の大原則は
「安全に4%取れるなら、無理に8%を狙わなくてよい」
というものです。
株式の期待リターンが年7%と言われていますが、
それは長期の平均値。
高値圏で買えば、
一時的にマイナス20%のリスクも十分にあります。
バークシャーはこの“リスク対リターンの非対称性”を理解しているため、
焦らずに現金を持ち続けているのです。
● クレジットイベントは必ず起きる
2025〜2027年は、
- 商業不動産ローンの崩壊
- 中国不動産問題
- 新興国債務危機
- 地政学ショック
- 米金融機関の不良債権化
など、様々な“信用の波”が予想されます。
バークシャーが現金を積んでいるのは、
“暴落時に唯一動ける投資家”になるため。
第7章|暴落が来たとき、バークシャーだけが動ける理由
多くの投資家は、
- 株価が上がると買いたくなる
- 株価が下がると怖くて買えない
- 現金を減らしすぎて暴落で何もできない
という“逆張り不能”状態に陥ります。
しかしバークシャーは違います。
● 3,000億ドル以上の現金=どんな時でも動ける
暴落時には
- 金融機関の破綻
- 大企業の資金ショート
- 需要蒸発
- 株価の暴落
- 社債スプレッド急拡大
などが連鎖しますが、
そのときこそ
優良企業を安値で買える最大のチャンス。
そして、そのチャンスを掴めるのは
“現金を大量に持っている者だけ”。
実際、リーマンショックの時も
コロナショックの時も
バークシャーは“市場の最後の救世主”として登場しました。
● 暴落は年に1回ではなく、10年に何度も来る
バークシャーはこれを熟知しているため、
常に現金を厚く置いています。
暴落で勝つ準備を整えることが、
長期投資家としての最大の武器 であり、
これこそが
“焦って株を買わない理由” の本質です。
第8章|“待つ力”こそ最強の投資戦略
── バフェット名言 × 山崎元氏の理論
最後に、このテーマの結論をまとめる章です。
● バフェットの言葉に答えがある
「投資とは、退屈であるべきだ。」
「市場は短期では投票機、長期では体重計である。」
「素晴らしい企業を、適正な価格で買い、永遠に持ち続ける。」
これらはすべて、
“焦らず、待ち続ける姿勢” につながっています。
● 山崎元氏の理論も同じ方向を指す
山崎元氏は
- 未来は分からない
- だから低コストで分散する
- そして現金余力を持つことが重要
と一貫して主張してきました。
まさにバークシャーが実践している方法。
終章|個人投資家が学べること
── 資産運用にどう活かすか
最後に、バークシャーの“待つ戦略”を、
シニア世代の投資にも落とし込みます。
● 学べること①:高値圏では焦らない
マーケットが上がり続けていても、
現金比率を上げるのは悪ではない。
バークシャーもそうしている。
● 学べること②:現金・短期債・MMFは“攻めの武器”になる
金利3〜5%の時代、
現金が「ただの待機資金」ではなく、
立派な投資商品 になっています。
● 学べること③:下落に備えることで勝率が上がる
バークシャーは
- 現金
- 商社の実物アセット
- 成長株(Alphabet)
- 防衛的消費(ドミノピザ)
などを組み合わせて、
“どの局面でも勝てる構造” を作っています。
日本で実践したいのは
- NISA
- iDeCo
- 高配当株
- 米国債
- MMF
- 円建て資産
- インデックス投資
といった分散戦略です。
● 結論
現金3,000億ドル超を持ちながら焦らない理由は、
勝つ準備を完璧に整えているから。
私たち個人投資家も、
焦って動くのではなく、
チャンスが来たときのために余力を残す。
これこそが、
バフェット流・山崎元流・そして孫子流の
“勝つべくして勝つ投資法” なのです。
エヌビディアの決算を目前に控え世界的に株価は下落していますが、準備をしてきた方にチャンスが到来したかもしれませんね。😉







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