債券ETFを活用した安定運用入門

――NISA・低コスト・安定性を重視する方へ

  1. はじめに:なぜ今「債券」に目を向けるのか
  2. 債券ETF・債券投信の基本と、メリット・デメリット
    1. 債券ETFとは?まずは仕組みから
    2. メリット:債券ETF/債券投信が選ばれる理由
      1. ① 少額で分散投資ができる
      2. ② いつでも売買しやすい(流動性)
      3. ③ 運用の手間をプロに任せられる
      4. ④ 信託報酬が低い商品も多く、長期向き
      5. ⑤ 株式との相関が低く、ポートフォリオの安定化に役立つ
    3. デメリット・注意点:債券ETFならではのリスク
      1. ① 金利上昇局面では価格が下がる
      2. ② 為替リスク(海外債券型の場合)
      3. ③ 満期償還で「元本が戻る」商品ではない
      4. ④ リターンは株式より控えめ
  3. NISAと債券ETF・債券投信の相性
    1. つみたてNISAと債券商品
    2. 一般NISA・新NISA(成長投資枠)と債券ETF
  4. NISAで使いやすく、信託報酬が低い注目の債券ETF・投資信託
    1. 1. iシェアーズ・コア 日本国債 ETF(コード:2561)
    2. 2. NEXT FUNDS 国内債券・NOMURA-BPI総合連動型上場投信(コード:2510)
    3. 3. eMAXIS Slim 国内債券インデックス(投資信託)
    4. 4. iシェアーズ 米ドル建て投資適格社債 ETF(海外債券の一例)
    5. 5. (参考)NEXT FUNDS 外国債券・FTSE世界国債インデックス(除く日本)(コード:2511) など
  5. どう活用するか:投資目的別の使い分け
    1. ① 安定性・元本保全を重視したい方
    2. ② 株式ポートフォリオの「揺れ」を和らげたい方
    3. ③ 為替リスクも許容し、利回りを少し追求したい方
  6. 「堅実な債券ポートフォリオ」の一例
    1. 例:株式+債券のバランス型ポートフォリオ
  7. おわりに:債券ETFは「守りの資産」として頼れる存在

はじめに:なぜ今「債券」に目を向けるのか

株式投資が盛り上がると、どうしても私たちの関心は株式一辺倒になりがちです。
しかし、将来の生活資金や老後の資金づくりという視点に立つと、

  • 「できるだけ大きく増やしたい」
  • その一方で「大きく減らしたくはない」

という、相反する気持ちが同時に存在しているのではないでしょうか。

この“増やしたいけれど減らしたくない”というニーズに対して、株式だけではボラティリティ(値動き)が大きく、不安を感じる場面も多くなります。そこで選択肢に入ってくるのが、債券、そして債券を手軽に分散して持つことができる債券ETF債券型投資信託です。

とはいえ、「どの銘柄を選べばよいのか」「為替リスクや金利の影響はどう考えるのか」「NISAで有利に使うには?」など、最初の一歩で迷うポイントも多いと思います。

この記事では、

  • 債券ETF/債券投信の仕組みとメリット・デメリット
  • NISAとの相性
  • 低コストで使いやすい具体的な銘柄例
  • 実際のポートフォリオでの活用イメージ

といった点を、丁寧に整理していきます。


債券ETF・債券投信の基本と、メリット・デメリット

債券ETFとは?まずは仕組みから

債券ETFとは、複数の債券をまとめてひとつの「バスケット」にした上で、それを株式のように売買できる商品です。
ここでいう債券には、

  • 国債(日本国債・米国債など)
  • 地方債
  • 社債(企業が発行する債券)
  • 政府保証債

などが含まれます。ETFごとに「どの種類の債券を、どのような比率で組み入れるか」が決まっており、その方針に沿って運用されます。

大きな特徴は次の2点です。

  1. 取引所で株と同じように売買できること
  2. 1本で多数の債券に分散投資できること

一方で、個別債券のように「満期になれば額面が返ってくる」という性格ではなく、
運用会社が債券を入れ替えながらファンドを維持するため、ETF自体には満期がありません
そのため、価格は常に変動しつづける点には注意が必要です。

メリット:債券ETF/債券投信が選ばれる理由

主なメリットは、次のようなポイントです。

① 少額で分散投資ができる

個別債券を1本買おうとすると、額面100万円といった単位になることも多く、「いきなりはちょっと…」と感じる方も多いと思います。
債券ETFであれば、数万円程度からでも多くの債券に分散投資することができ、特定の発行体に偏るリスクを抑えることができます。

② いつでも売買しやすい(流動性)

債券ETFは株式と同様に取引所で売買されるため、証券口座さえあれば市況を見ながら売買タイミングを調整しやすいという特長があります。
個別債券のように、金融機関とのやり取りが必要になるケースと比べると、アクセスのしやすさは大きなメリットです。

③ 運用の手間をプロに任せられる

債券の銘柄選定や、クーポン(利息)の受け取り・再投資、償還への対応などを運用会社が一括して行ってくれるので、個人投資家は「どのファンドを、どのくらい持つか」を決めることに集中できます。

④ 信託報酬が低い商品も多く、長期向き

なかには年0.1%を下回るような低コスト商品もあり、長期保有との相性が良い点も魅力です。
運用コストは長い目で見るとリターンを押し下げる要因になりますので、「できるだけ低コストのものを選ぶ」ことは、債券投資でもとても大切です。

⑤ 株式との相関が低く、ポートフォリオの安定化に役立つ

一般的に、株式と債券は値動きの方向が異なる場面が多く、株式が弱いときに債券が下支えしてくれるケースもあります。
そのため、株式一辺倒のポートフォリオに債券ETFを組み合わせることで、資産全体の値動きを滑らかにしやすいという効果が期待できます。

デメリット・注意点:債券ETFならではのリスク

一方で、債券ETFにも固有のリスクや注意点があります。

① 金利上昇局面では価格が下がる

債券価格は市場金利と逆方向に動くという性質があります。
金利が上昇すると、既存の債券の魅力は相対的に下がるため、債券ETFの価格も下落する可能性があります。

とくに、残存期間が長い債券(デュレーションが長い債券)を多く含むETFは、金利上昇の影響を受けやすい点に注意が必要です。

② 為替リスク(海外債券型の場合)

海外の債券に投資するETFを円建てで買う場合、為替の変動がリターンに大きく影響します。
円高が進めば、ドル建てでのリターンがあっても、円ベースでは目減りすることもあります。
「為替ヘッジあり」の商品もありますが、その分コストがかかることも多く、どちらを選ぶかは投資方針次第です。

③ 満期償還で「元本が戻る」商品ではない

個別債券は満期まで保有すれば額面で償還されるのが一般的ですが、債券ETFには満期がありません。
したがって、

  • 満期まで持てば元本が戻る前提での運用
    ではなく、
  • 価格の変動と分配金を合わせてトータルリターンを狙う運用

として考える必要があります。

④ リターンは株式より控えめ

債券はもともと「安全性」「安定性」を重視した資産クラスです。
その分、株式のような大きな値上がりは期待しにくく、特にインフレ局面では実質利回りが目減りするリスクもあります。


NISAと債券ETF・債券投信の相性

つぎに、日本の非課税制度であるNISAとの関係を整理しておきます。

つみたてNISAと債券商品

「つみたてNISA」で購入できるのは、金融庁が指定した長期・積立・分散投資に適した投資信託に限られています。
そのため、債券ETFを直接つみたてNISAで買えるケースは少なく、主に債券インデックス型の投資信託が対象となります。

一般NISA・新NISA(成長投資枠)と債券ETF

一方、「一般NISA」「新NISAの成長投資枠」では、

  • 上場株式
  • 上場投資信託(ETF)
  • REIT など

が対象になります。ここでは債券ETFも投資対象に含めることが可能です(取扱い銘柄は証券会社ごとのルールを要確認)。

したがって、「債券ETFをNISAで活用したい」という場合は、成長投資枠での利用を検討することになります。


NISAで使いやすく、信託報酬が低い注目の債券ETF・投資信託

ここからは、
「NISAでも使いやすく」「信託報酬が低め」「円建て中心で安定運用しやすい」
という観点で、代表的な銘柄をいくつかご紹介します。

※銘柄名やコード、信託報酬水準などは執筆時点の公表情報をもとにしています。実際に投資される際は、証券会社や運用会社の最新情報を必ずご確認ください。


1. iシェアーズ・コア 日本国債 ETF(コード:2561)

日本国債に特化した、コアとなる国内債券ETFです。

  • 投資対象:日本国債
  • 通貨:円建て(為替リスクなし)
  • 特徴:
    • 信託報酬が非常に低く、長期運用向き
    • 国債のみを対象とするため、信用リスクが小さい
    • 「債券の超基本形」としてポートフォリオの土台にしやすい

株式の比率が高いポートフォリオに、安定した“守りの部分”を加えたいときの第一候補になりうる商品です。


2. NEXT FUNDS 国内債券・NOMURA-BPI総合連動型上場投信(コード:2510)

こちらは、日本国内の公社債市場全体に広く分散投資するETFです。

  • 投資対象:日本の国債・地方債・社債などを含む「NOMURA-BPI総合」指数
  • 通貨:円建て(為替リスクなし)
  • 特徴:
    • 国債だけでなく、社債も含めて分散されている
    • 信託報酬は年0.1%未満の水準と、こちらも低コスト
    • 国内債券全体を“丸ごと買う”感覚で保有できる

「国債だけではなく、国内債券全体に広く分散しておきたい」という方に向いた商品といえます。


3. eMAXIS Slim 国内債券インデックス(投資信託)

ETFではありませんが、つみたてNISAでも使える代表的な国内債券インデックス投信のひとつです。

  • 投資対象:国内公社債(日本国債・地方債・社債など)
  • 通貨:円建て
  • 特徴:
    • 「eMAXIS Slim」シリーズらしく信託報酬が非常に低い
    • インデックス連動型のため、運用の透明性が高い
    • 分配金を再投資する形で、複利効果を狙う運用もしやすい

毎月一定額をコツコツ積み立てる場合など、「つみたてNISAの債券枠」としても候補に入る商品です。


4. iシェアーズ 米ドル建て投資適格社債 ETF(海外債券の一例)

こちらは日本上場ではなく、本家ブラックロックの米国上場ETFですが、
外国株式・ETFの取扱いがある証券会社であれば、一般口座や特定口座・NISA口座で購入できるケースもあります

  • 投資対象:米ドル建ての投資適格社債(信用格付けが一定以上の企業債)
  • 通貨:米ドル建て(為替リスクあり)
  • 特徴:
    • 投資適格債中心のため、ハイイールド債に比べると信用リスクが抑えられている
    • 社債ならではの利回りが期待できる
    • 為替動向によって、円ベースでのリターンが大きく変動する

為替リスクを取る代わりに、分配利回りを少し高めに狙いたいという方が、ポートフォリオの一部に組み込むイメージの商品です。


5. (参考)NEXT FUNDS 外国債券・FTSE世界国債インデックス(除く日本)(コード:2511) など

グローバルに分散投資をしたい場合には、世界の国債市場全体に投資するタイプのETFも選択肢になります。

  • 投資対象:日本を除く主要国の国債
  • 通貨:各国通貨建て(円との為替リスクあり)
  • 特徴:
    • 世界の国債市場に分散できる
    • 日本の金利環境だけでなく、海外金利にも分散される
    • 為替変動の影響を受けるため、長期視点での保有が前提

「日本だけでなく、グローバルに分散された債券ポートフォリオを持ちたい」という方には、検討する価値のあるジャンルです。


どう活用するか:投資目的別の使い分け

ここまで見てきた銘柄を、投資の目的別に整理してみます。

① 安定性・元本保全を重視したい方

  • 生活防衛資金や近い将来に使う予定があるお金
  • 老後のための“減らしたくない部分”の資金

こうした目的には、

  • iシェアーズ・コア 日本国債 ETF
  • NEXT FUNDS 国内債券・NOMURA-BPI総合連動型 ETF
  • eMAXIS Slim 国内債券インデックス

といった円建て×国内債券×低コストの商品が適しています。
株式より値動きが穏やかなため、“ポートフォリオの土台”として置きやすい層です。

② 株式ポートフォリオの「揺れ」を和らげたい方

すでに株式や株式投信を多く保有している方が、全体のリスクを少し下げたいと感じている場合には、

  • 国内債券ETFや国内債券インデックス投信を、ポートフォリオの10〜40%程度まで増やす
  • NISAの成長投資枠で、株式ETFと債券ETFを組み合わせて持つ

といった使い方が考えられます。

③ 為替リスクも許容し、利回りを少し追求したい方

  • ドル建て資産を増やしたい
  • 社債の利回りに魅力を感じる
  • 長期的に為替変動も含めてリターンを狙いたい

こうしたニーズには、
米ドル建て投資適格社債ETFや、世界国債インデックス連動型ETFなど、海外債券を投資対象とする商品が候補になります。

ただし、為替リスクが加わる分、値動きの幅が大きくなる場面もありますので、
ポートフォリオの中では**比率を抑えめ(例:債券部分の一部)**に取り入れる形がおすすめです。


「堅実な債券ポートフォリオ」の一例

最後に、あくまでも一つの例として、「債券を組み入れた堅実ポートフォリオ」をご紹介します。
(実際の比率は、年齢・資産規模・収入・リスク許容度によって大きく変わりますので、ご自身の状況に合わせて調整してください)

例:株式+債券のバランス型ポートフォリオ

  • 株式・株式投信:60%
  • 債券・債券ETF/投信:40%

この40%の債券部分を、さらに次のように分けます。

  • 国内債券(円建て・低コストETF・投信):債券部分の70〜80%
    • iシェアーズ・コア 日本国債 ETF
    • NEXT FUNDS 国内債券 ETF
    • eMAXIS Slim 国内債券インデックス など
  • 海外債券(為替リスク許容分):債券部分の20〜30%
    • 投資適格社債ETF
    • 世界国債インデックス型ETF/投信 など

このように分けることで、

  • 円建てで安定性を確保しつつ
  • 一部で海外債券や社債による利回りアップも狙う

というバランスの取れた設計を目指すことができます。


おわりに:債券ETFは「守りの資産」として頼れる存在

債券ETF・債券投信は、
「一気に増やすための攻めの資産」ではなく、“守りの土台”をつくるための資産です。

  • 株式だけのポートフォリオに不安を感じている
  • 退職後の生活や将来のお金を、もう少し安定的に運用したい
  • NISAを使って効率よく、かつ穏やかな運用をしたい

こうした思いがある方にとって、低コストの国内債券ETF/債券インデックス投信を組み合わせることは、選択肢としてとても有力です。

大切なのは、「何のために債券を持つのか」という目的をはっきりさせることです。
その上で、

  • どの程度のリスクを許容できるのか
  • 円建てと外貨建てのバランスをどうするのか
  • 株式との比率をどう調整するのか

を一つずつ整理していけば、ご自身に合った債券ETFの活用法が見えてきます。

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