はじめに
2025年秋、日本株市場は依然として力強い上昇を続けています。
日経平均株価は5万円を意識する水準に迫り、TOPIXやJPXプライム指数も高値圏で推移しています。
そんな中、個別銘柄を丁寧に見ていくと、「業績好調だから上がっている」という単純な理由だけでは説明しきれない値動きが目立ちます。
実はその裏側で静かにうねっているのが「需給の力」、すなわち信用倍率・貸借倍率・回転日数といった信用取引の構造変化です。
この記事では、これらの指標を軸に、
- なぜ今、日本株が「踏み上げ相場」になっているのか
- どのような銘柄に資金が集まっているのか
- 今後、需給面から見た日本株の展望はどうなるのか
をわかりやすく解説していきます。
第1章|信用取引と需給の関係——なぜ信用倍率が重要なのか
信用取引は、証券会社から資金や株を借りて取引を行う仕組みです。
投資家は「信用買い」で株を買い、「信用売り」で株を借りて売ることができます。
ここで生まれるのが、「信用買い残(買い建玉)」と「信用売り残(売り建玉)」。
この2つのバランスを示すのが「信用倍率」です。
- 信用倍率=信用買い残 ÷ 信用売り残
この倍率が1倍を下回ると、売り建てが多い、つまり「空売り」が多い状態になります。
売り方は、いずれ買い戻し(決済)をしなければならないため、株価が上昇すると**“買い戻し圧力”が発生します。これが俗に言う踏み上げ**です。
一方、信用倍率が高い場合(例:5倍、10倍)は、買い建てが多く、株価が下がると「追証・投げ売り」が発生するリスクがあります。
このため、信用倍率は「市場の需給バランス」を示す非常に重要な指標なのです。
第2章|貸借倍率——空売りの“苦しさ”を測るもう一つの物差し
次に見るべきは「貸借倍率(融資残 ÷ 貸株残)」。
これは証券金融会社が提供する制度信用取引における需給バランスを示す指標です。
- 貸借倍率<1倍:売り建て(空売り)が優勢。
- 貸借倍率>1倍:買い建てが優勢。
貸借倍率が1倍を大きく下回ると、「株を借りて売る」側の投資家が多く、株の貸し出しが追いつかない状態になります。
このとき「逆日歩(ぎゃくひぶ)」が発生し、空売りコストが上昇。
売り方が苦しくなり、結果として「踏み上げ」を誘発します。
つまり、信用倍率が低い+貸借倍率が低い=空売りが多く、買い戻し余地が大きいというシグナルになります。
第3章|回転日数でわかる「市場の熱量」
「回転日数」とは、信用取引の建玉がどのくらいのスピードで決済されているかを表す指標です。
- 回転日数が短い(5〜10日程度)→売買が活発、相場が加熱気味。
- 回転日数が長い(20〜30日以上)→取引が滞り、しこり玉が多い。
例えば、信用倍率が低く、貸借倍率も低い状態で、さらに回転日数が短縮している銘柄は、短期資金が一気に踏み上げ狙いで集まっている可能性があります。
逆に、回転日数が長くなると、相場の過熱が冷めつつあるサインとも読み取れます。
第4章|2025年11月時点の日本株——信用・貸借データから見た地合い
◆ 全体傾向
最新データによると、2025年11月初旬時点での日本株市場は以下のような特徴があります。
- 信用買い残は依然として高水準。
- 一部銘柄では信用売り残が急増し、信用倍率が1倍未満に低下。
- 貸借倍率の低下(=売り方の苦境)も目立ち、踏み上げ相場を形成。
つまり、全体では「買い優勢」ですが、局所的に売り優勢の銘柄で踏み上げ圧力が高まっている構図が見られます。
第5章|具体的な銘柄分析——踏み上げ圧力の強い3銘柄
信用倍率ランキング(Yahoo!ファイナンス2025/11/05更新)から、空売り残が多く信用倍率が0.1倍前後と極端に低い銘柄をピックアップします。
① アルペン(3028)
- 信用倍率:0.07(買い残5.5万/売り残82万)
- 貸借倍率も1未満で推移。
- スポーツ需要の回復とアウトドア市場拡大が背景。
空売り比率が高く、株価がやや上向くと踏み上げ圧が強まりやすい銘柄です。
② ホットランドHD(3196)
- 信用倍率:0.08(買い残4.2万/売り残55万)
- 貸借倍率も低位安定。
たこ焼き「築地銀だこ」で業績回復中。好業績+売り超過という構図は、典型的な踏み上げ候補です。
③ オークネット(3964)
- 信用倍率:0.08(買い残6.1万/売り残80万)
- IT×オークション事業で安定的な利益確保。
テーマ性(AI関連)との連動で短期資金が入りやすく、踏み上げの起点になりやすい。
第6章|逆に注意したい——信用買い残が極端な“過熱銘柄”
信用倍率が極端に高い(=信用買い残が膨張)銘柄は、反落時の下げが大きくなる傾向があります。
例として以下のような銘柄が挙げられます。
- エス・サイエンス(5721)信用倍率 118,057倍
- Synspective(290A)信用倍率 53,628倍
- INFORICH(9338)信用倍率 18,980倍
これらは短期資金の集中・投機的な動きが背景にあり、上昇が続く一方で、調整局面では「信用買いの投げ売り」が一気に出やすい点に注意が必要です。
第7章|需給構造が生む“踏み上げ相場”のメカニズム
「踏み上げ相場」は、心理的な圧力の連鎖でもあります。
- 株価が上昇
- 空売り勢が含み損を抱える
- 買い戻しが始まる
- 株価がさらに上がり、追加の買い戻し
- 個人・短期筋の買いが加わり一気に上昇
このスパイラルが一度動き出すと、短期間で急騰するケースが珍しくありません。
特に信用倍率0.3倍以下、貸借倍率0.8倍以下の銘柄ではこのパターンが多く見られます。
第8章|投資家心理と需給の裏側
相場は「期待」と「恐怖」のバランスで動きます。
信用買いは「期待の投資」、信用売りは「恐怖の投資」。
信用倍率が低い=恐怖が強い状況では、株価上昇時に恐怖の反転=買戻しが起こりやすく、結果的に需給主導で株価が上がることになります。
逆に、信用買い残が過剰=過信の状態では、相場の反転で「投げ売り」という恐怖が顕在化します。
市場の需給データは、人間心理の集積でもあるのです。
第9章|今後の見通し
◎ 上昇継続シナリオ
- 売り残が多く、信用倍率1倍未満の銘柄は引き続き踏み上げの主役。
- 金融緩和姿勢継続、企業の自社株買い、外国人資金の流入が背景にあり、短期的な上昇はまだ続く可能性。
- 貸借倍率が0.5倍前後まで下がるような銘柄は、逆日歩発生→空売り撤退→上昇加速という流れ。
◎ 注意すべき調整局面
- 信用買い残全体の水準が高止まりしており、相場全体の調整では「投げ売り」の連鎖リスク。
- 回転日数の短縮(過熱)から反落のサインも。
- 金利・為替・地政学リスクの外的要因で需給が一変する可能性も。
第10章|個人投資家が取るべきスタンス
- 信用倍率1倍未満の銘柄はウォッチリストに
特に0.5倍以下で、貸借倍率も低水準なら踏み上げ候補。 - 信用買い残が急増している銘柄は要警戒
投げ売り圧力を常に想定。 - 回転日数の変化を追う
5〜10日へ短縮=短期過熱。20日超=持ち合い、動意前兆。 - テクニカルとファンダを必ず併読
需給だけで判断せず、業績・テーマ・トレンドの整合性を確認。
第11章|“孫子”と“バフェット”の視点からみる需給戦略
「戦わずして勝つは、善の善なる者なり」——孫子の兵法
需給を読み、敵(市場)を知り、無理に戦わずに“待つ”ことも戦略です。
空売り勢が苦しい局面を見抜くことは、まさに「敵の弱点を突く」行為。
一方で、ウォーレン・バフェットはこう言います。
「市場は短期的には人気投票、長期的には秤(はかり)である。」
需給(人気)で一時的に上がる株も、長期的には業績(実力)で評価されます。
短期戦略として踏み上げ相場を捉えつつも、最終的には企業価値を見極める冷静さが求められます。
第12章|まとめ——需給が教える「株の呼吸」を読む力
信用倍率・貸借倍率・回転日数は、
まるで市場の「呼吸」を表す心拍のようなものです。
- 信用倍率が低下 → 空売りが多く、買戻し余地あり
- 貸借倍率が低下 → 売り方が苦しい、逆日歩リスク
- 回転日数が短縮 → 相場が熱を帯びる
これらを組み合わせて見ることで、単なる「業績」や「テーマ」では読めない市場の本音が見えてきます。
需給の波に乗る者が、次の上昇トレンドを先取りできる。
それが、今の日本株市場の本質といえるのではないでしょうか。😊




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