12月も押し迫り配当金の権利確定日が近づくと、投資家にとっては税金対策が重要なテーマとなります。適切な知識と戦略を持つことで、税負担を軽減し、投資効率を高めることが可能です。
配当金の基本と権利確定日・権利落ち日
配当金は、企業が利益の一部を株主に還元するもので、投資家にとって重要な収入源です。配当金を受け取るためには、権利確定日に株主名簿に記載されている必要があります。しかし、株式の受渡しには通常2営業日かかるため、実際には権利付き最終日(権利確定日の2営業日前)までに株式を購入する必要があります。一方、権利落ち日は、権利付き最終日の翌営業日で、この日以降に株式を購入しても次回の配当金を受け取る権利は得られません。また、権利落ち日には配当分の価値が株価から差し引かれるため、株価が下落する傾向があります。
配当金にかかる税金の仕組み
日本では、配当金に対して所得税15.315%と住民税5%、合わせて20.315%の税金が源泉徴収されます。これにより、受け取る配当金は税引き後の金額となります。ただし、確定申告を行うことで、「総合課税」や「申告分離課税」を選択でき、配当控除や損益通算を活用することで税負担を軽減できる場合があります。
では具体的に配当金を「総合課税」で確定申告するか、「申告分離課税」で申告するか、どちらが有利かを見てみましょう。
総合課税と申告分離課税の違い
① 総合課税
- 仕組み: 配当金を給与所得など他の所得と合算して総合的に課税される。
- メリット: 所得税の配当控除が受けられる。
- デメリット: 所得が高い場合、累進課税により税率が高くなる。
② 申告分離課税
- 仕組み: 株式の譲渡益や配当金を分けて申告し、税率は一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)。
- メリット: 所得が高くても税率は一定。
- デメリット: 配当控除が受けられない。
※配当控除:上場株式や投資信託などから得た配当金に対して、一定の税額控除が受けられる制度です。これは、法人段階での所得税と個人への配当金課税の二重課税を軽減するための仕組みです。申告分離課税を選択した場合は適応外です。
どちらが有利かを判断するポイント
① 総合課税が有利なケース
- 所得が900万円以下(課税所得ベースで695万円以下)。
- 配当控除が有効に働く場合。
- 他の所得と合算しても税率が大きく上がらない場合。
- 配当金の額が比較的大きく、所得が低い場合。
② 申告分離課税が有利なケース
- 所得が900万円超(課税所得ベースで695万円超)。
- 高所得者で、累進課税により総合課税だと税率が高くなってしまう場合。
- 配当控除よりも一律20.315%の方が税負担が少ない場合。
- 他に株式の売却益・損失がある場合(損益通算ができる)。
簡単な判断基準
- 年収が900万円以下 → 総合課税が有利なことが多い
- 年収が900万円以上 → 申告分離課税が有利なことが多い
具体例で比較
ケース1: 課税所得が400万円、配当金が50万円
- 総合課税: 所得税率20% → 配当控除を受けると税負担が軽減。
- 申告分離課税: 税率20.315% → 総合課税の方が有利。
→ 総合課税が有利
ケース2: 課税所得が1,000万円、配当金が100万円
- 総合課税: 所得税率33% → 配当控除を受けても税負担が大きい。
- 申告分離課税: 税率20.315% → 税率が一定で低い。
→ 申告分離課税が有利
実際の判断方法
- 自分の課税所得を確認(給与所得・その他所得含む)。
- 配当金の額を確認。
- 税率をシミュレーション(税金計算ツールや税理士に相談)。
結論
- 所得が低い場合(900万円以下)→ 総合課税
- 所得が高い場合(900万円超)→ 申告分離課税
では、配当金の課税方式は変更できる?
結論: はい、変更可能です。
証券会社では通常、申告分離課税(税率一律20.315%)として源泉徴収されますが、確定申告で「総合課税」を選択して再計算することが可能です。
ただし注意点
全ての配当所得を総合課税にする必要がある
- 一部を申告分離課税に、一部を総合課税にすることはできません。
住民税は別途申告が必要な場合がある
- 住民税については、総合課税を選んでも、申告分離課税を選ぶことも可能な自治体があります。
還付額の試算をする
- 確定申告書作成コーナー(国税庁サイト)や税理士に相談し、試算することで有利な選択が可能になります。
みなさんの年収によっては配当金の税金を節税できるかもしれません。

税金対策としての損益通算(損出し)の活用
損益通算とは、株式の売却損と配当金などの利益を相殺することで、課税対象となる所得を減少させる方法です。具体的には、含み損を抱えている株式を売却して損失を確定させ、その損失と配当金の利益を相殺します。これにより、年間の課税所得を減らし、結果的に支払う税金を減少させることが可能です。ただし、同一銘柄を同じ日に同じ口座で買い戻すと、税法上は**「買ってから売った」**とみなされ、損益通算の効果が得られない場合があります。そのため、別の証券口座を利用するか、日をずらして買い戻すなどの工夫が必要です。
信用取引における配当金の取り扱いと注意点
信用取引では、現物株と異なり、配当金の受け取りや支払いに関して特有の取り扱いがあります。信用買いの場合、配当金は直接受け取れませんが、配当落調整額として受け取ることができます。しかし、この配当落調整額は配当金額から所得税相当分が差し引かれた額となり、税法上の扱いも異なります。一方、信用売り(空売り)の場合、配当金相当額を支払う必要があります。特に、制度信用取引と一般信用取引では支払う額が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
長期的な視点での税金対策と投資戦略
短期的な税金対策も重要ですが、長期的な視点での投資戦略も考慮する必要があります。例えば、配当金を再投資することで複利効果を得られ、資産を効率的に増やすことができます。また、NISA(少額投資非課税制度)などの税制優遇制度を活用することで、配当金や売却益にかかる税金を非課税にすることも可能です。さらに、長期保有特典を設けている企業の株式を保有することで、株主優待や配当金の増額といったメリットを享受できる場合もあります。
まとめ
配当金の権利確定日が近づくと、税金対策が重要な課題となります。配当金にかかる税金の仕組みを理解し、適切な戦略を立てることで、税負担を軽減し、投資効率を向上させることが可能です。また、長期的な視点での投資戦略や税制優遇制度の活用も検討し、総合的な資産形成を目指しましょう。



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