はじめに
2026年の衆議院選挙を前に、日本の金融市場は大きな転換点に差しかかっています。与野党ともに「食品・食材に対する消費税の軽減(ゼロ税率化を含む)」を掲げ、家計支援と物価高対策を前面に打ち出しました。その一方で、財政拡張への懸念から円安が進み、日本国債利回りは上昇基調を強めています。
通常であれば、
- 財政悪化懸念 → 国債売り → 金利上昇
- 金利上昇 → 株式の割引率上昇 → 株安 という連想が働きます。
ところが現実には、日経平均株価は53,000円台という高水準を維持しています。本稿では、
- 食品軽減税率政策の整理
- 財政・為替・金利の現状
- なぜ株価が崩れないのか
- 選挙前後のマーケットシナリオ
- 投資家視点での戦略整理
これらを一体として整理し、選挙に向けた日本マーケットの方向性を推論を交えながら解説します。
第1章 食品・食材の軽減税率とは何か
1-1 現行制度の整理
現在、日本の消費税は
- 標準税率:10%
- 軽減税率:8%
という二本立てになっています。軽減税率8%の対象は、
- 生鮮食品(野菜・果物・肉・魚など)
- 加工食品(冷凍食品、調味料、パン、麺類など)
- 酒類を除く飲料
といった、いわゆる「日常的な食料品」です。
1-2 選挙公約としての軽減・ゼロ税率
今回の衆院選では、与野党ともにこの食料品分野について
- 軽減税率を一時的に0%にする
- もしくは現行8%をさらに引き下げる
といった案を掲げています。
狙いは明確で、
- 物価高に苦しむ家計の支援
- 消費マインドの下支え
- 選挙における分かりやすい訴求
です。
1-3 家計と企業への影響
仮に食料品の消費税が8%→0%になれば、
- 一般家庭では年間数万円規模の負担軽減
- 内食(家庭での食事)が増えやすい
という効果が見込まれます。
企業側では、
- 食品スーパー
- ディスカウントストア
- 食品メーカー
といった分野が数量ベースでの需要増加の恩恵を受けやすくなります。
第2章 財政拡張とマーケットの反応
2-1 財政悪化懸念の高まり
消費税は日本にとって最大級の安定財源です。その一部である食料品税をゼロ化する場合、税収減は避けられません。
市場では、
- 税収減 → 財政赤字拡大
- 赤字補填 → 国債増発
という連想が先行しています。
2-2 国債利回りの上昇
その結果、日本国債市場では売りが優勢となり、
- 長期金利
- 超長期金利
ともに上昇しています。
金利上昇は、
- 国債価格の下落
- 借入コストの上昇
を意味し、金融市場全体に緊張感をもたらします。
2-3 円安が進む構造
金利が上がっているにもかかわらず円安が進んでいる点も重要です。
背景には、
- 財政規律への不安
- 日米金利差がなお大きいこと
- 海外投資家の円売り・日本株買い
といった要因が重なっています。
円安は、
- 輸出企業の収益にはプラス
- 輸入物価・生活コストにはマイナス
という二面性を持ちます。
第3章 それでも株価が崩れない理由
3-1 政策期待が株価を支える
選挙に向けた財政拡張は、短期的には
「政府が景気を支える」
というメッセージとして市場に受け取られます。
- 減税
- 補助金
- 公共投資
これらは企業収益の下支え要因として、株式市場ではポジティブに評価されやすいのです。
3-2 企業業績の底堅さ
日本企業は、
- 円安効果
- 海外売上比率の高さ
- 価格転嫁の進展
により、収益体質を強化してきました。
金利上昇という逆風があっても、
「利益が伸びるなら株価は下がらない」
という判断が働いています。
3-3 海外投資家の存在
円安局面では、海外投資家にとって日本株は
- 割安に見える
- 為替差益も狙える
という魅力があります。
結果として、
- 円売り
- 日本株買い
というフローが株価を下支えしています。
3-4 悪材料はすでに織り込み済み
財政拡張や国債増発の議論は、すでに市場に広く共有されています。
そのため、
- 新しい悪材料が出ない限り
- サプライズがなければ
株価は意外と崩れにくい状況にあります。
第4章 選挙前後のマーケットシナリオ
4-1 選挙前(現在〜投開票まで)
選挙前は、
- 政策論争
- 世論調査
- 与野党の攻防
が続き、不透明感が高まります。
この局面では、
- 株価は高値圏でのレンジ相場
- 金利と為替の変動は大きめ
という「神経質な相場」になりやすいでしょう。
4-2 与党勝利・安定政権シナリオ
与党が安定多数を確保した場合、
- 財政拡張の継続
- 成長戦略の明確化
への期待が高まり、
- 株高基調が継続
- 円安・金利高が続く
可能性があります。
4-3 与党苦戦・政局不安シナリオ
一方で、
- 与党が過半数割れ
- 連立交渉が難航
といった展開になれば、
- 政策停滞への懸念
- リスク回避の動き
から、
- 株式は一時的に調整
- 円高方向への巻き戻し
が起きる可能性もあります。
第5章 日銀政策との関係
5-1 財政拡張とインフレ圧力
減税や財政出動は、
- 需要を刺激
- インフレ圧力を高める
方向に働きます。
日銀は、
- 物価
- 賃金
- 為替
を総合的に見ながら、追加利上げの判断を迫られます。
5-2 利上げは株式に本当に悪いのか
一般論では、利上げは株式にネガティブです。しかし現在の局面では、
- 利上げ=景気が強い証拠
という解釈も成り立ちます。
そのため、
- 金利上昇=即株安
とは限らず、
「セクター間の選別が進む」
展開が想定されます。
第6章 投資家目線での整理
6-1 強くなりやすい分野
- 輸出関連
- 資源・エネルギー
- 銀行・金融
これらは、円安・金利上昇の恩恵を受けやすい分野です。
6-2 注意が必要な分野
- 生活必需品(コスト増が価格転嫁できない場合)
- 高PERの成長株(金利上昇に弱い)
6-3 個人投資家への示唆
選挙相場では、
- 短期の値動きに振り回されない
- 政策の「方向性」を見る
ことが重要です。
おわりに
今回の衆院選を巡るマーケットは、
- 減税・財政拡張というポジティブ材料
- 財政悪化・金利上昇というネガティブ材料
が同時に存在する、非常に複雑な局面にあります。
それでも株式市場が53,000円台を維持しているのは、
「政策によって景気は支えられる」という期待
が、現時点では勝っているからだと言えるでしょう。
選挙はリスクであると同時に、方向性が定まるイベントでもあります。結果が見えたとき、市場は再び大きなトレンドを描き始める可能性があります。
短期のノイズに惑わされず、
- 財政
- 金利
- 為替
- 企業収益
という軸を意識しながら、冷静にマーケットを見つめていきたいところです。






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