はじめに
人生100年時代に突入し、定年後の生活設計がますます重要になってきました。特に60代後半の「退職と同時に年金と雇用保険をどう受け取るか」は、数百万円単位で差が出る重大な選択肢です。本記事では「64歳11ヵ月で退職し、雇用保険と老齢年金を併用する際の最適な受給戦略」について、制度の整理、受給パターンの比較、損益分岐点、税・社会保険の影響などを詳細に解説します。
1. 制度の全体像:「65歳前」と「65歳以後」で何が変わる?
年齢 | 雇用保険 | 老齢年金 | 併給の可否 |
60〜64歳 | 基本手当(最大240日) | 特別支給の老齢厚生年金などは停止 | ×(不可) |
65歳以上 | 高年齢求職者給付金(一時金) | 老齢基礎年金・厚生年金 | ○(可) |
64歳11ヵ月で退職すると、基本手当(失業給付150日間)をフルで受け取り、その後、65歳から本来の老齢年金が支給開始となります。この制度上の「狭間のタイミング」をどう活かすかがカギです。
2. 三つの受給戦略:A・B・Cプラン比較
● パターンA:65歳の誕生月から年金請求(繰下げなし)
- 基本手当150日(約97.5万円)
- 年金5ヵ月分(約117万円)
- 合計:約214.8万円(65歳の年)
→ 年金月額:23.5万円/年額:281.5万円 → キャッシュフローの安定性が高く、税負担も軽め
● パターンB:5ヵ月繰下げ請求(+3.5%増)
- 基本手当:同上
- 年金開始:65歳5ヵ月〜
- 年金月額:約24.3万円(+約8千円)
- 年金年額:291.3万円
→ 初年度収入:97.5万円のみ → 損益分岐年齢:77歳 → 長寿リスク対策に有効
● パターンC:65歳退職・高年齢求職者給付金(50日)+年金満額
- 給付金:32.5万円(一時金)
- 年金:65歳から満額(約281.5万円)
- 合計:約314万円(最大手取り)
→ 現金主義なら最強。ただし、退職時期を1カ月遅らせる必要あり

3. 損益分岐の考え方と選択基準
比較項目 | A:65歳請求 | B:5ヵ月繰下げ | C:65歳退職+一時金 |
初年度手取り | ◎ 214.8万円 | △ 97.5万円 | ◎ 314万円 |
年金月額 | ○ 23.5万円 | ◎ 24.3万円 | ○ 23.5万円 |
長寿対策 | △ | ◎ | △ |
現金確保 | ○ | △ | ◎ |
結論:
- キャッシュを早めに確保したいなら「A」
- 健康・長寿を前提に将来重視なら「B」
- 現金最大化&退職月調整可能なら「C」

4. 最適な選択のために必要な追加情報
区分 | 必要な情報 | 影響項目 |
雇用保険 | 被保険者期間/離職理由/直前6ヵ月の賃金 | 給付日数と日額 |
年金 | 特別支給の有無、加給年金 | 支給停止の有無、月額 |
税制 | 他の所得/控除後の課税所得 | 年金課税、住民税等 |
生活設計 | 寿命見込み/再就職予定 | 老齢年金調整、手取り総額 |
資産 | 退職金/NISA/iDeCo等 | 運用による補填余地 |
5. 受給額のシミュレーション(仮定)
年金:
- 老齢基礎年金:816,000円/年
- 老齢厚生年金:1,999,272円/年(月166,606円)
- 合計:2,815,272円/年
雇用保険:
- 基本手当150日:6,500円×150日=975,000円(非課税)
- 高年齢求職者給付金50日:6,500円×50日=325,000円(非課税)
6. 注意点・税務と社会保険料
- 基本手当と高年齢求職者給付金は非課税
- 年金は所得税・住民税課税対象
- 65歳以降は健康保険料から外れ、介護保険料のみ
- 自己都合退職なら「7日待期+1ヵ月給付制限」が必要
まとめ:
64歳11ヵ月退職後の選択肢は、どれも正解になり得ます。肝心なのは、「どの価値を重視するか」──キャッシュの厚さか、生涯年金の増額か、ライフスタイルの柔軟性か。
年金繰下げによる受給額の増額は確実な利回りを生みますが、その間の生活費や医療費をどう捻出するかも忘れてはなりません。
バランス重視ならパターンA、長生き前提ならパターンB、現金重視ならパターンC。
読者の方のライフプランに応じて、ぜひ最適な選択を見つけてください。


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