出口戦略
運用で増やした資産をいかに現金化し、生活費などに充てるかの「取り崩し方法」を計画することです。ここでは、投資信託、債券、現金、金という資産それぞれの特性を踏まえた出口戦略のポイントをご紹介します。
1.基本的な考え方
- リタイア時点のライフプランに合わせたリバランス
退職直後は比較的積極的な運用(投資信託中心)で資産を増やし、退職後は徐々に安全資産(債券、現金、金)へシフトしていくのが一般的です。 - 段階的な取り崩し
一括売却では市場タイミングのリスクが大きいため、定期売却(定額または定率)やハイブリッド方式で徐々に資産を現金化していくことが望ましいです。
2.資産ごとの出口戦略
【投資信託】
- 定期売却が基本
市場の変動リスクを抑えるため、一度にすべてを売却するのではなく、毎月または四半期ごとに一定口数(または一定金額)を売却する方法が推奨されます。 - 定率方式と定額方式の併用
初期は残高に応じた定率方式で売却し、資産が減少してからは生活費に合わせた定額方式へシフトするハイブリッド戦略も有効です。
【債券】
- 満期保有でリスク軽減
国債や高格付けの社債は、満期まで保有すれば元本が返ってくるため、基本は満期まで持ち続けるのが安全です。 - 市場売却による現金化
急な資金需要が発生した場合、債券は流動性も比較的高いため、売却して現金化することも検討できます。ただし、売却タイミングにより価格変動リスクがあるので注意が必要です。
【現金】
- 現金は即時性の担保
生活費の一部として、あるいは緊急時の備えとして十分な額(例:2~3年分の生活費)を保有します。 - 流動性を活かして安定供給
現金部分は市場の変動に左右されないため、出口戦略の軸として活用できます。
【金】
- インフレヘッジおよび分散効果
金は物価上昇や市場の不安定時に価値を保ちやすいため、全体のリスク分散として一定割合(例:5%)を保有します。 - 必要時に現金化
金は流動性が低めですが、長期的な保有によるヘッジ効果を期待し、資産が必要になったときに徐々に売却して現金化する方法が考えられます。
3.取り崩し方法の選択
- 定額方式
毎年(または毎月)一定金額を取り崩す方法は、家計設計がしやすいというメリットがありますが、市場が低迷している時でも一定額を引き出すため、資産減少のペースが早まる可能性があります。 - 定率方式
毎年資産残高に一定の割合で取り崩す方法は、市場の変動に合わせて取り崩し額が自動調整されるため、資産寿命を延ばす効果が期待できます。ただし、取り崩し額が変動するため生活費の安定性という面で課題が生じる可能性があります。 - ハイブリッド方式
初期は定率方式で市場の恩恵を受けながら、ある程度資産が減った段階で定額方式に切り替えることで、安定したキャッシュフローを確保する方法もおすすめです。
4.まとめ
出口戦略は「資産運用後にいかに安定したキャッシュフローを確保するか」が鍵となります。
- 投資信託は、定期売却を基本とし、状況に応じて定率と定額のハイブリッド方式を採用する。証券会社の定額取り崩しや定率取り崩しを利用。
- 債券は満期保有を基本としつつ、必要時に売却して現金化する。
- 現金は流動性の担保として十分に保有。
- 金はインフレヘッジとリスク分散のために一定割合を維持し、必要時に現金化する。
また、各資産の特性や市場環境、さらにはご自身のライフプラン(退職後の収入や支出の見通し)を踏まえたシミュレーションを実施し、専門家のアドバイスを受けながら出口戦略を確立することが重要です。
このような出口戦略をあらかじめ計画しておくことで、資産運用後の生活資金の安定供給と資産の効率的な取り崩しが可能となります。
定率取り崩しと定額取り崩し 4%ルール
定率取り崩しの特徴
- 資産残高に連動
市場が下落すると取り崩し額も自動的に減るため、資産の寿命(資産が持つ期間)が延びやすい。 - リスク調整の柔軟性
取り崩し率が一定のため、ポートフォリオ全体のパフォーマンスに合わせた調整が可能です。 - 取り崩し額の変動
毎年の生活費として引き出す金額が変動するため、家計の安定性という点では注意が必要です。
定額取り崩しの特徴
- 毎年一定の取り崩し額
毎年同じ金額を引き出すため、生活費の計画がしやすく、家計管理が安定します。 - 市場下落時のリスク
市場が悪化しても取り崩し額が変わらないため、資産の減少ペースが速くなる可能性があり、長期的な資産寿命が短くなるリスクがあります。
どちらが良いかは…
- 生活費の安定性を重視する場合
定額取り崩しは毎年一定額が手元に入るため、生活費の確保という面では有利です。特に「安全重視」で、急な市場変動時にも生活に支障が出ないようにしたい場合は、定額方式が適していると考えられます。 - 資産の長期持続性を重視する場合
定率取り崩しは市場状況に合わせて取り崩し額が自動調整されるため、資産が下がった場合でも無理に取り崩す必要がなく、結果的に資産寿命が延びる可能性があります。
結論
安全重視の観点から「生活費の確実な供給」を最優先するなら、定額取り崩しが分かりやすく安心感があります。しかし、資産を長持ちさせる(例えば90歳時点で目標残高を残す)ことも重要な場合は、定率取り崩し、または両者のメリットを取り入れたハイブリッド方式(初期は定額、その後市場状況に応じて定率にシフトするなど)も検討すると良いでしょう。

ケーススタディ
定年65歳を過ぎての資産の取り崩しを考えます。日米投資信託、日米国債券、現金、金の資産の配分と90歳を目標に取り崩す場合の最適解をいくつか挙げます。前提は資産額:3000万円程度。生活資金月35万円程度目標。リスク許容度は70歳迄はやや積極的、70歳以降は安全重視。収入は年金年額200万円と配当所得年額100万円。
資産配分:現在は日米個別株40% 投資信託 50%米国債券 10%の配分とします。※インフレ率は3%想定。(最終的な資産残高は考慮しません。)
各方式のメリット・デメリットと、ライフステージ(65~70歳はやや積極的、70歳以降は安全重視)を反映した配分例と取り崩し方法をご紹介します。なお、インフレ率は3%前提、生活費の不足分(年間約120万円)が主な取り崩し対象となります。
【方式別の特徴】
【定額方式(毎年一定額の取り崩し)】
- メリット
・毎年同じ金額(初年度約120万円、以降インフレ調整)を引き出すため、家計設計がしやすい - デメリット
・市場下落時も固定額を引き出すため、資産残高が急激に減少するリスク(ただし今回は最終残高を考慮しない前提)
【定率方式(残高に応じた一定割合)】
- メリット
・ポートフォリオのパフォーマンスに合わせて取り崩し額が自動調整され、下落局面では無理な売却を避けやすい - デメリット
・毎年の取り崩し額が変動するため、生活費の安定性という点では計画が難しくなる可能性がある
【提案例①:定額方式の場合】
【65~70歳(やや積極的フェーズ)】
- 日米投資信託:45%
→ 成長性を期待(国内外の株式型、配当重視型などを選択) - 日米国債券:35%
→ 安定的な収益確保のため、短中期の高格付け債を中心に - 現金:15%
→ 取り崩し資金として流動性を確保(2~3年分を目安) - 金:5%
→ インフレヘッジおよびリスク分散
取り崩し方法
・初年度は約120万円(不足分)を定額で取り崩し、その後毎年3%のインフレ調整を実施
【70~90歳(安全重視フェーズ)】
- 日米投資信託:30%
→ 株式比率を引き下げ、安定重視へ - 日米国債券:50%
→ 債券比率を高め、収益の安定性をさらに強化 - 現金:15%
→ 引き続き流動性を確保 - 金:5%
→ 安全資産としての役割
取り崩し方法
・引き続き毎年定額(インフレ調整済み)で取り崩すことで、家計費を安定的に賄う
【提案例②:定率方式の場合】
【65~70歳(やや積極的フェーズ)】
- 日米投資信託:40%
→ 成長性と分散投資を意識 - 日米国債券:45%
→ 安定収入確保のため、幅広い債券を組み入れ - 現金:10%
→ 取り崩し用の短期流動性として - 金:5%
→ インフレ対策およびリスク分散
取り崩し方法
・初年度はポートフォリオ残高の約4%(約120万円相当)から始め、毎年残高に応じた一定割合で取り崩す
※市場が下落すれば取り崩し額も自動調整され、家計への影響を緩和
【70~90歳(安全重視フェーズ)】
- 日米投資信託:30%
→ より安全な運用へシフト - 日米国債券:55%
→ 債券比率をさらに高め、安定性を重視 - 現金:10%
→ 流動性確保 - 金:5%
→ 安全資産として維持
取り崩し方法
・定率方式の取り崩し率(例えば毎年残高の4%前後)を適用。市場状況に応じて取り崩し額が変動するため、生活費の変動リスクはあるが、資産減少のペース調整が可能
【提案例③:ハイブリッド方式】← お勧め
【基本は定額で最低必要額(約120万円/年、インフレ調整済み)を確保しつつ、市場が好調な場合は追加で定率的に取り崩す】
【65~70歳】
- 日米投資信託:40%
- 日米国債券:40%
- 現金:15%
- 金:5%
→ 初年度は定額で120万円の引き出しを基本とし、好調時はポートフォリオの増加分の一部(定率方式)を上乗せ
【70~90歳】
- 日米投資信託:30%
- 日米国債券:50%
- 現金:15%
- 金:5%
→ 定額部分は維持しながら、必要に応じて定率方式で追加取り崩しし、ライフスタイルに合わせた柔軟な資金供給を実現
【まとめ】
- 定額方式は毎年一定の金額が手元に入り、家計設計がしやすいが、市場低迷時には資産減少が速くなるリスクがあります。
- 定率方式は市場変動に合わせた取り崩しとなり、資産の持続性を図りやすいですが、毎年の取り崩し額が変動するため、生活費の安定性を維持するには注意が必要です。
- ハイブリッド方式は基本的な定額取り崩しを軸に、状況に応じて追加の定率取り崩しを行うことで、安定性と柔軟性を両立する方法です。
各提案は、65歳から70歳まではやや積極的な運用を行い、70歳以降は安全重視の配分へシフトすることを前提としています。最終的には、ご自身のライフプラン、資産状況、そして市場環境に合わせたシミュレーションを行い、ファイナンシャルプランナー等と相談して決定することをおすすめします。
長い年月をかけて運用してきた資産を取り崩す段階・年齢になる前に戦略を考えシンプルな取り崩しを計画していきましょう!高齢化していくと集中力、思考能力が低下する傾向にあります。しっかり考えることが出来るうちに行動できればと思います。



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