2025年問題が現実となり、介護を担う世代の経済的負担はますます増えています。物価上昇に加え、再雇用で収入が減る中、親の介護費用や税負担が家計を圧迫します。そこで注目したいのが「家族分け(世帯分離)」を活用した節税対策です。この記事では、60歳・再雇用サラリーマンで要介護の母親を扶養しているケースを例に、節税と福祉制度のメリットを最大限に活かす方法をわかりやすく解説します。
家族分けとは?5つの文脈で理解する基本概念
「家族分け」という言葉には様々な意味がありますが、税制や福祉制度と関係が深い以下の5つの文脈で活用されます。
1. 税務・社会保険対策としての家族分け
所得税・住民税の控除を最適化するため、誰を扶養に入れるかを調整します。たとえば所得が高い方に子どもを扶養させると控除額が増え、税金が軽減されます。また、130万円以内の収入に抑えて被扶養者として保険料負担を免除することも可能です。
2. 医療・介護制度上の世帯分離
住民票上の世帯を分けることで、母親が「住民税非課税世帯」となり、介護保険料や医療費が大幅に軽減される場合があります。
3. 相続・贈与対策
生前贈与を複数人に分散することで、贈与税の非課税枠(年間110万円)を有効活用し、相続財産を戦略的に圧縮できます。
4. 戸籍上の家族分け
離婚や分籍により戸籍上の家族構成を変更することで、相続や保険契約に影響を与えるケースもあります。
5. 福祉制度の判定基準への影響
住民税の課税状況によっては、大学の授業料免除や生活保護・医療助成の判定が変わります。


ケーススタディ:60歳・再雇用、介護中の母を扶養する場合の節税対策
【前提条件】
- 年齢:60歳、再雇用サラリーマン
- 年収:月収20万円 → 年収240万円(ボーナスなし)
- 同居する母:80歳、要介護、年金収入のみ
- 持ち家あり(住宅ローンなし)
- 他の扶養家族なし
このような状況では、「家族分け+控除活用+確定申告」の3本柱による節税が非常に有効です。
【1】世帯分離の実施とその効果
▶ 方法と手続き
- 役所で「世帯分離届」を提出するだけ。理由の記載不要。
- 同じ住所であっても、住民票上で別世帯とすることが可能です。
▶ 節税・福祉効果
項目 | 分離前 | 分離後 |
介護保険料 | 所得合算で高額 | 母の年金所得のみで軽減 |
高額介護サービス費 | 月上限44,400円 | 月上限15,000円 |
医療費自己負担 | 最大3割 | 原則1割+軽減措置 |
国保・住民税 | 通常課税 | 非課税世帯化で軽減 |
【2】扶養控除・障害者控除など各種控除を活用
▶ 活用すべき控除
控除名 | 所得税 | 住民税 |
同居老親等扶養控除 | 58万円 | 48万円 |
特別障害者控除(要介護3以上) | 40万円 | 30万円 |
基礎控除 | 48万円 | 43万円 |
▶ 実行手順
- 母は税法上の扶養のままでOK(住民票分離とは別)
- 年末調整または確定申告で控除申請
- 障害者控除は市区町村へ「障害者控除対象者認定申請書」を提出
【3】医療費控除と確定申告の活用法
年間10万円超の医療・介護費を支払っている場合は、医療費控除が有効です。
▶ 医療費控除の仕組み
- 控除対象額 = 医療費合計 -(10万円 or 総所得の5%)
- 申告により所得税・住民税が軽減
▶ 手続きの流れ
- 領収書や明細書を集める(母の通院・介護費含む)
- 確定申告書に記載(e-Taxまたは紙申告)
- 還付金がある場合、口座に振込
【4】生活費援助と贈与税の扱い
親に対する生活費援助は、扶養義務者間であれば贈与税の対象外です。
▶ 注意点
- 「生活費」として必要な都度支払うこと(まとめて振込はNG)
- 銀行振込履歴や領収証を保管する
【5】実例シミュレーション(節税効果)
あなたの課税所得は以下のように圧縮されます。
項目 | 金額 |
年収 | 2,400,000円 |
給与所得控除 | -550,000円 |
基礎控除 | -480,000円 |
老親等扶養控除 | -580,000円 |
障害者控除(要介護3) | -400,000円 |
医療費控除(概算) | -200,000円 |
課税所得 | 約0円 |
よくある質問と回答
Q. 世帯分離しても扶養控除は使えますか?
→ A. はい、住民票上の世帯と税法上の扶養は別扱いなので問題ありません。
Q. 同居していても世帯分離は可能?
→ A. 可能です。キッチンや部屋が別である必要はありません。
Q. 贈与税はかかる?
→ A. 生活費として支出する分には非課税です。ただし現金管理には注意を。

まとめ|家族分けを知れば節税と介護費負担軽減が両立できる
「家族分け(世帯分離)」と「控除の最大活用」、そして「確定申告」の3本柱を実行することで、60代サラリーマンでも親の介護負担を減らしながら、税金・保険料を最小限に抑えることができます。
介護と収入減、物価上昇が重なる現代。制度を賢く使いこなして、安心で豊かなセカンドライフを築いていきましょう。



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