現在、金融所得課税(株式譲渡益など)に関して「申告分離課税の税率を20%から30%に引き上げる」という法案が提出されているわけではありません。しかし、超富裕層への課税強化として「ミニマムタックス」の導入が議論されるなど、金融所得課税の見直しは引き続き注目を集めています。ここでは、もし申告分離課税が30%に引き上げられたらどうなるのか、そして総合課税を選択する場合との違い、損益分岐点をやさしく解説します。
1. 申告分離課税がすぐに30%になる可能性は低い
- 現状の税率は20%(実際は20.315%)で、これを30%に引き上げる具体的な法案は提出されていません。
- ただし、超富裕層(年間所得が約30億円超)を対象に、最低でも22.5%の税負担を求める「ミニマムタックス」の導入が予定されているため、今後も金融所得課税の動向には注目が必要です。
- 国民民主党による「金融所得課税の税率を30%に引き上げる」提案の報道もありますが、現時点で具体的な法案提出には至っていません。
2. 仮に30%に増税されたらどうなる? 簡易シミュレーション
下記は、給与年収1,000万円で、株式の売却益700万円があった場合を例にした試算です。実際の課税所得は控除の状況などで変わりますので、あくまで参考としてご覧ください。
2-1. 申告分離課税を選択した場合
- 現行税率 20% 700万円×20%=140万円700万円
- 仮に30%に増税された場合 700万円×30%=210万円700万円
2-2. 総合課税(給与所得と合算)を選択した場合
- 前提:
- 給与年収1,000万円 → 課税所得は約750万円(給与所得控除後)と仮定
- 株式の値上がり益700万円を合算 → 合計課税所得は1,450万円程度と仮定
- 国税(所得税)の計算例
- 合算時(1,450万円)の所得税
14,500,000円×33%−1,536,000円=3,249,000円
給与のみ(750万円)の所得税
7,500,000円×23%−636,000円=1,089,000円
- 差額(株式益にかかる追加分)
3,249,000円−1,089,000円=2,160,000円
・住民税の増加分(10%と仮定)
7,000,000円×10%=700,000円
・合計:追加の所得税+住民税
2,160,000円+700,000円=2,860,000円
つまり、株式売却益700万円に対して、
- 申告分離課税(現行20%) だと約140万円
- 30%に増税されると 約210万円
- 総合課税(累進課税) だと約286万円(上記仮定条件の場合)
にになる可能性があります。
3. 損益分岐点:どこから総合課税より分離課税が有利になる?
株式譲渡益に対する税負担を「申告分離課税」または「総合課税」のどちらで計算するか選択できる場合、年収が低い人ほど総合課税のほうが低い税率になりやすく、有利になります。逆に、年収が高い人ほど累進課税の税率が高くなるので、申告分離課税のほうが有利になるケースが多いです。
3-1. 現行の申告分離課税率(約20%)の場合
- 年収が低ければ、総合課税の追加税率(限界税率)が15%程度になるため、総合課税のほうが安い。
- 年収が約300〜470万円のあたりで限界税率が20%となり、分離課税とほぼ同じ負担。
- 年収が470万円以上になると、総合課税の税率が30%以上に上がるため、分離課税(20%)が有利。
3-2. 仮に申告分離課税率が30%に上がった場合
- 年収が低い人は総合課税だと限界税率が15〜20%なので、総合課税が有利。
- 年収が約470万円前後になると、総合課税でも限界税率が30%付近に達し、分離課税と同程度に。
- 年収がさらに高い場合は、総合課税だと30%超になるため、申告分離課税の30%のほうが有利となります。


4. まとめ:自分に合った課税方法の選択が重要
- 現行の分離課税20%
年収が高くなるほど総合課税だと税率が30%超になる可能性があり、分離課税が有利なケースが多い。 - 分離課税30%に増税されると仮定した場合
年収が約470万円を境目に、総合課税の限界税率が30%近くになるため、そこから上の所得層は分離課税が有利になる。
5. 実際にどうすればいいのか?
- 年収や控除状況をしっかり確認する
- どれくらいの所得控除(基礎控除・扶養控除など)があるかで最終的な課税所得は変わります。
- 株式譲渡益と合算したときの「限界税率」を概算する
- 累進課税が有利になるか、分離課税が有利になるかを比較し、損益分岐点を見極める。
- 不明点は専門家(税理士など)に相談する
- 税制は改正が多く、個人の状況によって数字も変わるため、最新情報をもとに試算することが大切です。
【参考サイト】
今後も「金融所得課税」や「ミニマムタックス」に関する議論は続くと予想されます。法改正が具体化すれば、申告分離課税の税率や損益分岐点の考え方も変わる可能性があります。日々のニュースや専門家の情報をこまめにチェックし、最適な納税方法を選択しましょう。


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