導入(問題提起)
先週、米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利を引き下げました。通常であれば、金利引き下げ=金融緩和は債券市場に追い風となり、長期債利回りも低下するのがセオリーです。ところが現実には、FRB議長の発言を受けて米国株は下落、さらに米国10年債利回りは逆に上昇するという「逆行現象」が起きました。
「政策金利を下げたのに長期債利回りが上がる」──これは一見すると矛盾のように思えます。しかし、金融市場は単純ではなく、複数の要因が絡み合った結果なのです。
本記事では、この現象の背景を丁寧に解説し、さらに米国債の利回りが株式や日本株の利回りと比べて投資妙味があるのかについても考えていきます。
第1章:政策金利と長期金利の違い
政策金利とは?
政策金利とは、FRBが金融政策として直接操作する短期金利(フェデラルファンド金利)のことです。銀行間で資金を貸し借りする際の基準金利であり、FRBが利下げすれば短期的な資金調達コストが下がります。
長期金利とは?
一方、長期金利は10年国債などの市場金利です。これは投資家の「将来の金利見通し」「インフレ予想」「財政懸念」などを織り込んで決まるため、FRBが金利を下げても必ず連動するわけではありません。
基本的な関係性
- 政策金利引き下げ → 短期金利は下がる
- しかし、長期金利は「将来インフレが高止まりする」と予想されれば逆に上がることもある
第2章:なぜ長期金利が上昇したのか?5つの要因
ここから、今回のように「利下げしたのに長期債利回りが上がる」背景を具体的に説明します。
① 将来の金利見通し(利下げ余地の限定)
FRBは0.25%の利下げを実施しましたが、議長は同時に「今後は慎重に進める」と発言。市場は「大幅な利下げは見込めない」と判断しました。結果として、投資家は「長期的には金利はそこまで下がらない」と見込み、長期債の利回りは上昇しました。
② インフレ期待の強さ
インフレ率が完全に収束していないため、投資家は「債券を長期で持つとインフレで価値が目減りする」と考えます。そのリスクを補うために「より高い利回り」を要求した結果、債券価格が下がり利回りが上がりました。
③ 財政赤字と国債増発懸念
米国政府は巨額の財政赤字を抱えており、今後も国債発行が増えると見込まれています。供給が増えると価格が下がり、利回りは上昇します。
④ ターム・プレミアムの上昇
長期債を持つ投資家は、インフレや金融政策の変化など「予測困難なリスク」にさらされます。このリスクに対する上乗せ利回り(ターム・プレミアム)が上がっているのです。
⑤ FRBの発言効果
「利下げ=緩和」とは言え、議長が「インフレとの戦いを続ける」と強調すれば、市場は「追加利下げは限定的」と受け止めます。結果的に短期金利は下がっても長期金利はむしろ上がるという逆行現象が起きます。
第3章:具体例で理解する
仮に以下のような状況を想定します。
- 政策金利:4.25% → 4.00% に利下げ
- 投資家の予想:将来は3.5%程度までしか下がらない
- インフレ予想:2.8%で高止まり
- 国債発行:拡大傾向
この場合、投資家は「長期債を買うには4.0%では足りない、最低4.2%以上必要」と考えます。そのため10年債利回りが4.15%に上昇する──まさに今回の現象です。
第4章:米国債の利回りと株式利回りの比較
では、現在の米国債利回り(約4.15%)は株式と比べて魅力的なのでしょうか。
米国株
- 配当利回り:1.5〜2.0%
- 収益利回り(E/P):3〜5%
- 成長期待を含めればトータルリターンは5〜7%程度
日本株
- 配当利回り:2〜3%
- 収益利回り:4〜5%程度
- 商社株や高配当株は5〜6%も可能
米国債(10年債)
- 名目利回り:約4.15%
- インフレ調整後の実質利回り:1〜1.5%
👉 結論:
- 配当だけで見れば、米国債の利回りは株式を上回る
- しかし、成長込みでは株式の方が長期的には優位
第5章:実質利回りでの比較
名目利回りからインフレ率を引いた「実質利回り」で比較すると以下の通り。
- 米国債:1〜1.5%
- 米国株:3〜5%
- 日本株:2〜4%
👉 リスクを取れるなら株式、守りを重視するなら債券、という住み分けが明確になります。
第6章:シナリオ別有利不利
- ソフトランディング:株も債券も恩恵あり
- ハードランディング:米国債が一人勝ち
- インフレ再燃:株(特に日本商社株や資源株)が有利、債券は不利
第7章:ポートフォリオ提案(基本バランス型)
最後に、実際の投資アイデアを示します。
- 米国債(40%):IEF, TLT, AGG
- 米国株(40%):VOO, QQQ, XLP
- 日本株(20%|個別株中心):
- 商社:三菱商事・三井物産・伊藤忠
- 通信:NTT・KDDI
- 医薬:武田薬品
- 補強:日本製鉄
- 商社:三菱商事・三井物産・伊藤忠
このバランスなら、どのシナリオでも一定の耐性が期待できます。

結論
「政策金利を下げたのに長期金利が上がる」──これは金融市場の「将来期待」が複雑に絡み合った結果です。単純に「利下げ=金利低下」とはならず、インフレ見通し・財政赤字・FRBの姿勢などが織り込まれるのです。
そして今の4%台の米国債利回りは、株式の配当利回りと比べれば十分魅力的。一方で成長力では株式に軍配が上がります。したがって、投資戦略としては「米国債を安全資産、日本株高配当をインフレ対策、米国株を成長エンジン」とするバランス運用が鍵となります。
どのタイミングで下落(暴落?)が起きるかドキドキが続いていますが対策を行いその時に備えたいですね。😊


コメント