4月のトランプ関税ショックからの株価回復と今後の展望
2025年4月、トランプ前大統領が発表した新たな関税措置により、日米の株式市場は急落しました。しかし、わずか1ヵ月後の5月には、S&P500や日経平均連動型ETFなど主要指数が70%以上の回復を見せました。この背景には、AI関連企業の好決算と米英貿易交渉への期待が影響しています。
一方、金融政策の面では、FRBは5月のFOMCで政策金利(FF金利5.25〜5.50%)を据え置き、「インフレと雇用のリスクが共存している」として利下げには慎重な姿勢を崩していません。また、日銀も4月会合で短期金利0.5%を維持。輸出減速などを受けて利上げを先送りする構えを見せています。
米国経済の見通し:高金利継続とAI主導の成長
指標 | 現状 | 年末想定 |
実質GDP | 前年比+1.6%前後 | +1.5〜2.0%:消費が底堅い一方、関税で輸入価格が上昇 |
物価(PCEコア) | 3月+2.8% | +2.5%:住宅賃料の粘着性と関税影響が持続 |
金利 | FF5.25〜5.50% | 据え置きが基本シナリオ、年内利下げは12月以降(確率40%) |
株価(S&P500) | 約5,650pt | 5,650〜6,000pt:AIセクターのEPS成長が牽引 |
債券 | 10年債利回り4.6% | 4.4〜4.9%:財政赤字の拡大で低下しにくい |
FRBは「物価上昇と雇用のバランス」に注目しており、利下げには慎重。スタグフレーションへの警戒が続いています。
日本経済の見通し:賃金と物価のせめぎ合い
指標 | 現状 | 年末想定 |
実質GDP | +0.5%(年率) | +0.0〜0.5%:輸出・設備投資が鈍化 |
CPIコアコア | 3月+2.3% | +2.0%:補助金打ち切りで再加速リスク |
金利 | 短期0.5%、長期1.0% | 年内に0.25%の利上げ可能性あり(確率30%) |
為替(ドル円) | 約153円 | 145〜150円:米利下げ観測と日銀の小幅利上げが交錯 |
株価(日経平均) | 約34,500円 | 36,500〜37,000円:円安+PBR是正が下支え |
賃金上昇とインフレのバランスが日銀の焦点。「2%の物価安定目標の定着」が見えるまでは、急激な金融引き締めは行わない見込みです。
投資戦略と資産配分の示唆
- 米国株:AI関連メガテック+ディフェンシブ銘柄(ヘルスケア・公益)でバランスを取る構成が有効
- 日本株:PBR1倍割れ&累進配当銘柄の選別、円安メリットのある輸出関連企業に注目
- 債券:米IG債や円建て社債で3〜5年の中期デュレーションを意識した構成が望ましい
- 為替ヘッジ:ドル建て資産には50〜60%の為替ヘッジを段階的に実施
アラスカ資源開発とコモディティ市場への影響
トランプ政権はアラスカ北極圏の広大な油田・鉱山地域を再び開発対象とし、希土類・ニッケル・コバルトなど49種の重要鉱物を国家安全保障の観点から供給拡大に動いています。生産増は2027年以降と見込まれますが、長期的な供給過剰観測が先物市場に影響を与え始めています。
原油市場:供給過剰と中東リスクの綱引き
指標 | 現状 | 年末想定 |
世界需要増加 | +73万b/d | +70〜90万b/d:景気減速で下方修正傾向 |
世界供給増加 | +160万b/d | +140〜170万b/d:米・カナダ・アラスカが寄与 |
OPEC+方針 | 増産姿勢 | 年央に減産再調整の可能性あり |
ブレント価格 | 78〜82ドル | 65〜85ドルレンジ:中東リスクとの綱引き |
金価格と中央銀行の動き
指標 | Q1実績 | 年末予測 |
供給 | 1,206t(前年比+1%) | +1〜2%の増加 |
中央銀行需要 | 中国・ポーランドが主導 | 高水準が続く見通し |
価格コンセンサス | 3,065ドル/oz | 2,900〜3,300ドル/oz |
アラスカのレアメタル政策は金の供給には影響が限定的。金価格はドルや地政学的リスク、各国の備蓄政策に左右される構造が続きます。
ドルの価値と相場の展望
指標 | 現状 | 年末予想 |
DXY(ドル指数) | 約96.8 | 94〜98のレンジ |
米10年債利回り | 4.6% | 4.4〜4.9% |
ドル円 | 153円 | 140〜150円 |
ドルは高金利で支えられている一方、関税による経常赤字・レアメタルの通貨多様化が中長期での軟化要因となります。
今後のリスクと投資戦略まとめ
シナリオ | 原油 | 金 | ドル |
ベースケース | 70ドル前後 | 3,000ドル前後 | DXY95〜97 |
上振れ(中東ショック) | 100ドル超 | 3,300ドル超 | 一時ドル高→反転 |
下振れ(世界景気減速) | 55ドル割れ | 2,800ドル | FRB緩和観測でドル安 |
ビジネス・投資実践ヒント
- エネルギー株:配当・自社株買い重視で下値耐性を確保
- 金ETF・鉱株:ポートフォリオの5〜10%を目安に分散投資
- レアメタル関連:採掘ではなく精錬・リサイクル技術に注目
- 為替ヘッジ:ドル建て資産へのヘッジ戦略を段階的に強化
結論:三すくみ市場をチャンスに変えるバランス投資
石油は供給過剰が優勢で、アラスカ増産も心理的に価格を抑制する要因に。金は中央銀行の備蓄需要が支えとなり、高値維持が想定されます。ドルは高金利が支えつつも、双子の赤字と通貨多様化の流れにより、年末に向けて緩やかにピークアウトする可能性があります。
2025年後半は「地政学リスクなき水面下の綱引き」がテーマ。エネルギー・貴金属・通貨をうまく分散させ、変動をチャンスに変えるバランス投資が求められる時期と言えるでしょう。



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