「時価総額(market capitalization)」は、企業の株式価値の総額を表すもので、ファンダメンタルズ分析において非常に重要な指標の一つです。以下に、時価総額の基本から、ファンダメンタルズとの関連性を含めて詳しく解説します。
🔹【1】時価総額の定義と計算式
● 定義
企業の**株式市場における価値(規模)**を示す指標で、投資家が企業を評価する際の第一歩として使われます。
● 計算式
時価総額 = 株価 × 発行済株式数
📌 例: 株価:2,000円
発行済株式数:1億株
→ 時価総額 = 2,000円 × 1億株 = 2,000億円
🔹【2】時価総額の分類
投資家は企業の規模によって以下のように分類します:
分類 | 目安(日本市場) | 特徴 |
大型株(Large-cap) | 数千億円~数兆円 | 安定性が高く、業績も成熟。機関投資家が多く投資 |
中型株(Mid-cap) | 数百億円~数千億円 | 成長性と安定性のバランスがある |
小型株(Small-cap) | 数十億円~数百億円 | 成長期待は大きいが、ボラティリティが高い |
🔹【3】時価総額とファンダメンタルズとの関係
時価総額だけでは企業の割安・割高を判断できません。以下のファンダメンタルズ指標と組み合わせて分析します。
🔸① PER(株価収益率)
PER = 時価総額 ÷ 純利益
または
PER = 株価 ÷ EPS(1株あたり利益)
→ PERが低いと割安とされるが、成長性も考慮が必要。
🔸② PBR(株価純資産倍率)
PBR = 時価総額 ÷ 純資産
または
PBR = 株価 ÷ BPS(1株あたり純資産)
→ PBR1倍以下は理論的に割安とされる。
🔸③ ROE(自己資本利益率)
ROE = 純利益 ÷ 自己資本
→ ROEが高い企業は資本効率が良い=時価総額が高くなりやすい。
🔸④ 売上高・営業利益・営業利益率
→ 高い利益率を維持している企業は、将来の成長が見込まれ時価総額が上昇しやすい。
🔹【4】注意点
- 株式分割や自社株買いなどで発行株式数が変化すると、時価総額も変動。
- M&Aや上場廃止でも大きく変化。
- 短期的な株価変動にも敏感なため、時価総額=企業価値の絶対評価ではない。
🔹【5】補足:EV(企業価値)との違い
時価総額は株式価値のみを示しますが、企業全体の価値を評価する場合はEV(Enterprise Value)=企業価値を使います。
EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現金同等物
→ 買収価値や企業価値全体を測る際に有用です。

EV(企業価値:Enterprise Value)
**EV(企業価値:Enterprise Value)**は、企業の本質的価値を評価するための極めて重要な指標で、株価だけでは見えない「事業全体の価値」を捉える際に使われます。
以下では、EVの基本から、**実際の企業評価への使い方(EV/EBITDA法など)**を中心に、投資家・企業分析者が使う実践的な評価手法を詳しく解説します。
🔶【1】EV(企業価値)の基本
● EVの定義:
企業全体(株主+債権者)の価値を表す指標で、買収コストの目安にもなります。
● 計算式:
EV(企業価値)= 時価総額 + 有利子負債 − 現金及び現金同等物
● なぜ現金を差し引く?
現金は買収後に自由に使えるため、実質的な買収負担が減るからです。
🔶【2】EVを使った代表的な企業評価法
✅ ① EV/EBITDA倍率(バリュエーション分析の王道)
● 定義:
EV / EBITDA = 企業価値 ÷ 税引前・利払前・減価償却前利益
● ポイント:
- 減価償却や税制の影響を排除し、純粋なキャッシュフロー創出能力を見る指標。
- 業種間比較がしやすい(例:製造業 vs 通信業など)。
- 通常は「5倍〜15倍」程度が目安とされます(業界により異なる)。
● 使用例(簡易):
企業A | 企業B |
EV = 5,000億円 | EV = 6,000億円 |
EBITDA = 1,000億円 | EBITDA = 800億円 |
EV/EBITDA = 5倍 | EV/EBITDA = 7.5倍 |
→ 企業Aの方が割安と評価できる可能性があります(収益力に対する価値が低いため)。
✅ ② EV/売上高倍率(EV/Sales)
EV / 売上高 = 企業価値 ÷ 年間売上高
● ポイント:
- 利益が出ていない赤字企業(ベンチャーやスタートアップなど)にも使える。
- 成長企業の評価に用いられる。
- 業界平均との比較が重要(SaaS業界なら10倍超も珍しくない)。
✅ ③ EV/FCF(EV/フリーキャッシュフロー)
EV / FCF = 企業価値 ÷ フリーキャッシュフロー
● 長所:
- 自由に使えるキャッシュベースでの評価なので非常に現実的。
- キャッシュが豊富な企業は割安とされる。
🔶【3】EVを使うメリット・デメリット
項目 | 内容 |
✅ メリット | 株価だけでは評価できない全体価値を捉えられる。税金・会計処理に左右されにくい。 |
⚠ デメリット | 現金・有利子負債の正確な把握が必要(IR資料や決算書の熟読が必要)。また、EBITDAの質にも注意。 |
🔶【4】EVを用いた投資判断の実例(架空企業)
仮に以下のような2社があるとします。
項目 | 企業A | 企業B |
時価総額 | 3,000億円 | 2,500億円 |
有利子負債 | 2,000億円 | 1,000億円 |
現金 | 500億円 | 300億円 |
EV | 4,500億円 | 3,200億円 |
EBITDA | 750億円 | 400億円 |
EV/EBITDA | 6.0倍 | 8.0倍 |
→ 同じ業界であれば、企業Aの方が収益性に対して割安かつ財務負担がやや高いと判断できる。
🔶【5】企業買収(M&A)におけるEVの役割
買収提案において、EVは「買収価格の目安」となります。
例えば:
- 買収企業が目標企業のEVをベースに価格交渉
- 相手のEBITDAが高ければ、高いEVを提示しても正当化される
→ ファンドやM&A仲介企業が活用する「買収マルチプル分析」の中核指標です。
🔶【6】EVを調べるには?
以下の情報を使えば自分でEVを計算できます:
- 株価 × 発行済株式数(=時価総額)
- 有利子負債(決算書「貸借対照表」参照)
- 現金および現金等価物(同上)
- EBITDA(損益計算書 or 決算資料内の「営業利益+減価償却費」で代替可能)
※多くの証券情報サイト(例:バフェットコード、マネックス銘柄スカウター、Bloombergなど)でも確認可能です。
リアルタイムでEV/EBITDAが低い割安な日本株をスクリーニングするには、以下の方法やツールを活用することをおすすめします。
🔍 EV/EBITDAが低い割安日本株のスクリーニング方法
1. SBI証券のスクリーニングツール
SBI証券では、Refinitiv社が提供するスクリーニングツールを利用して、EV/EBITDAを含むさまざまな財務指標で銘柄を検索できます。
利用手順:
- SBI証券のウェブサイトにアクセスし、ログインします。
- 「国内株式」セクションから「スクリーニング」を選択します。
- スクリーニング条件として、EV/EBITDAの値を指定します(例:EV/EBITDA < 5)。
- 必要に応じて、他の指標(PER、PBR、配当利回りなど)や業種、時価総額などの条件も追加します。
- 検索結果から、条件に合致する銘柄を確認できます。
📌 スクリーニング時のポイント
- 業種平均との比較: EV/EBITDAの値は業種によって異なるため、同業種内での比較が重要です。
- 他の指標との併用: PERやPBR、配当利回りなど、他の指標と組み合わせて総合的に評価することが効果的です。
- 最新のデータを確認: 企業の財務状況は変動するため、最新の決算情報やニュースを確認することが重要です。
EV/EBITDAが低く、割安と評価される可能性のある日本企業の例
1. ジャパンエレベーターサービスホールディングス(証券コード:6544)
- 業種:サービス業(エレベーターの保守・リニューアル)
- EV/EBITDA(2025年3月期予想):24.2倍 → 2027年3月期には17.6倍へ低下予想
- 特徴:
- 保守契約台数が年平均15%で増加し、リカーリング収益が安定
- 営業利益率は2025年3月期予想で17.2%、2027年3月期には19.1%へ向上見込み
- フリーキャッシュフロー(FCF)利回りは2025年3月期予想で2.2%、2027年3月期には3.4%へ改善予想
- 西日本への拠点拡大やM&A戦略で市場シェアを拡大中
- 保守契約台数が年平均15%で増加し、リカーリング収益が安定
2. ダイセル(証券コード:4202)
- 業種:化学(セルロース誘導体、機能性樹脂など)
- EV/EBITDA:詳細な数値は公開されていませんが、2026年度にROIC 10%達成を目指しており、EBITDAの増加を計画しています。
- 特徴:
- 基盤事業の収益力向上と成長分野の拡販による増収・増益を維持
- EBITDAのさらなる増加を計画し、資本効率・資産効率の向上を図っています
- 健全なバランスシートを維持しながら、企業価値の向上を目指しています
- 基盤事業の収益力向上と成長分野の拡販による増収・増益を維持
3. レゾナック・ホールディングス(証券コード:4004)
- 業種:化学(半導体材料、機能性化学品など)
- EV/EBITDA:詳細な数値は公開されていませんが、2024年12月期の有価証券報告書にて、主要な経営指標等の推移が確認できます。
- 特徴:
- 半導体材料を中心とした高付加価値製品の開発・販売を強化
- グローバル展開を進め、海外売上比率の向上を図っています
- 持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進
- 半導体材料を中心とした高付加価値製品の開発・販売を強化
これらの企業は、EV/EBITDAが比較的低く、成長性や収益性の面でも注目されています。投資判断を行う際は、最新の財務情報や業績予想を確認し、総合的に評価することをおすすめします。
✅ まとめ
- 時価総額は「株式市場での価値」
- EV(企業価値)は「企業全体の本当の価値」
- 投資判断には PER・PBR・EV/EBITDAなどを組み合わせて総合的に評価しよう
- スクリーニングツールを活用すれば、割安株を見つけることが可能!



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