前回の賢くシリーズの続編です。
株式配当をマイクロ法人の売上として計上し、それを基に役員報酬を支払うというスキームをご説明します。
1. 株式配当を法人の収益として計上することについて
一般的には、個人が保有している株式の配当金は、法人の売上として直接計上することはできません。株式の保有者があくまで個人である場合、その配当は個人の所得となります。法人が配当金を受け取る場合には、その株式を法人名義で保有している必要があります。具体的には次のような点が関係してきます:
- 株式の名義変更:配当金を法人の売上として計上するためには、株式を法人名義で保有する必要があります。個人から法人へ株式を譲渡する際には、譲渡所得に対する課税が発生する可能性があるため、この点も注意が必要です。
- 法人での配当金の扱い:法人が株式を保有し、配当を受け取る場合、配当金は法人の収入として計上されますが、法人税が課されることになります。ただし、配当所得には一部免除(受取配当金の益金不算入制度)などの特例も適用される場合があります。これにより、法人税の負担が軽減される可能性があります。
2. 役員報酬を100万円に設定することについて
役員報酬を年間100万円に設定することは可能です。この際の留意点として以下があります:
- 社会保険料:役員報酬を低めに設定することで、社会保険料の負担を抑えることができます。例えば、年間100万円の報酬であれば、月額報酬約8.3万円として計算されるため、社会保険料の負担も相対的に低く抑えられます。
- 税務署の視点:役員報酬を低く設定し、残りの利益を株式配当などで計上して節税するスキームは、税務署から「税務上の利益調整の意図」として監査対象になりやすい点にも注意が必要です。法人税の負担を過度に回避する目的で役員報酬を低く設定する場合、税務署から否認されるリスクがあります。
スキームの実現可能性
- 法人で株式を保有:個人の株式を法人名義に変更し、法人で配当金を受け取る形であれば、このスキームは可能です。ただし、株式の譲渡に伴う課税、法人の資産評価など、いくつかの手続きや税務上の負担が発生します。
- 役員報酬の適正性:役員報酬の設定は、法人税の節税目的だけでなく、社会保険料とのバランスや税務署からの視点も考慮する必要があります。過度に低い報酬設定は認められない可能性があります。
結論
このスキームを実行することは可能ですが、実現には次のような注意が必要です。
- 株式を法人名義で保有し、法人が配当金を受け取る必要がある。
- 法人への株式譲渡に伴う課税リスクを検討する。
- 役員報酬を適切な水準に設定し、税務署からの監査リスクに備える。
株式配当を法人の収益として計上する場合
1. 株式を法人名義で保有し、法人が配当金を受け取る必要がある
株式の配当を法人で受け取るためには、まずその株式を法人名義で保有しなければなりません。このプロセスにおいて、以下の点に注意が必要です。
- 株式譲渡手続き:
- 譲渡方法:個人から法人への株式の譲渡は、通常の売買や贈与などの形式を取ります。売買の場合、適正な時価で取引される必要があり、税務署が過小評価や過大評価と判断しないように適正な価格を設定することが求められます。
- 登記・名義変更:株式の名義変更には、証券会社を通じての手続きが必要です。譲渡後は、株主名簿などの記載も法人名義に変更される必要があります。
- 法人の資産としての株式保有:
- 株式を法人が保有することで、法人の資産評価が変わります。その結果、法人の財務諸表(貸借対照表)に株式の評価額が記載され、法人の資産価値が増加します。この点は、銀行融資などを考える場合にはプラスですが、資産管理を慎重に行う必要もあります。
- 配当所得の法人税負担:
- 法人が受け取る配当所得は通常、法人の収入として計上されます。ただし、受取配当金の益金不算入制度という特例が適用されることがあります。これは、一定の条件を満たす場合、法人が受け取る配当の一部または全部が課税所得から控除される仕組みです。特に、持ち株比率や保有期間に関する規定があるため、この点をしっかり理解しておく必要があります。
2. 法人への株式譲渡に伴う課税リスクの検討
個人から法人への株式譲渡に伴う課税リスクには、以下の点が含まれます。
- 譲渡所得税:
- 株式を個人から法人に譲渡する場合、その株式の時価と取得費の差額が「譲渡所得」として認識されます。この譲渡所得に対して、**20.315%**の税率(所得税15.315%+住民税5%)で課税されます。そのため、株式の時価が譲渡時に高ければ高いほど、譲渡所得税の負担が大きくなります。
- 評価額の妥当性:
- 税務署は、譲渡の際の評価額が適正かどうかを厳しく監視しています。例えば、過小評価で株式を譲渡し、法人が安価に株式を取得した場合、税務署はこの取引を「租税回避」とみなす可能性があります。このリスクを避けるためには、適正な評価額での譲渡を行うことが重要です。
- 贈与税のリスク:
- 株式を贈与の形で法人に移すことも可能ですが、この場合には贈与税が発生するリスクがあります。贈与税は累進課税であり、譲渡所得税よりも高率になる場合が多いため、注意が必要です。
3. 役員報酬を適切な水準に設定し、税務署からの監査リスクに備える
役員報酬を適切に設定することは、法人化の効果を最大化するために非常に重要です。以下に具体的なポイントを示します。
- 適正報酬額の設定:
- 役員報酬は法人税の計算において経費として計上されますが、税務署はこの報酬額が**「相当の範囲」**であるかを確認します。過度に低い報酬設定や、収益に対して極端に高い報酬を設定することで節税効果を狙うと、税務署は「法人税の過少申告」とみなして否認するリスクがあります。
- 一般的に、同業他社の役員報酬水準や、企業の収益規模と役員報酬のバランスを参考にすることが適正な範囲の設定に役立ちます。
- 税務調査のリスク回避:
- 役員報酬の設定においては、年度ごとの変更を避けることが重要です。役員報酬は、通常年度開始時に決定され、その年度内で変更しないことが望まれます。年度途中で頻繁に報酬を変更すると、税務署に「利益調整の意図がある」と判断されるリスクがあります。
- また、利益が高い年に報酬を増やし、利益が少ない年に減らすような操作を行うと、税務上問題視される可能性があるため、役員報酬はできるだけ安定的に設定することが求められます。
- 法人税の負担と社会保険料のバランス:
- 役員報酬が法人の利益に対して高額に設定されすぎると、法人としての利益が少なくなり、法人税の節税効果はありますが、その代わりに個人の所得税や社会保険料の負担が増えることになります。そのため、法人全体としての税負担と、役員個人の税負担をバランス良く考える必要があります。
ケーススタディ:定年後に「マイクロ法人化」で成功した実例
ケーススタディ1:65歳の鈴木さんの場合
鈴木さん(仮名)は定年退職後、自分の株式投資収入を賢く管理するために「マイクロ法人」を設立しました。彼は、定年後も自宅で趣味として行っていた投資活動を法人化することで、税負担を減らすことを目指しました。特に彼が注目したのは、役員報酬と配当所得を組み合わせることで節税効果を最大化することです。
鈴木さんはまず税理士に相談し、法人の設立手続きや節税のポイントについて助言を得ました。その結果、鈴木さんは自らを「代表取締役」として役員報酬を設定し、それを法人の経費に計上することで法人税を減少させました。また、法人利益の一部を配当金として受け取り、個人の所得として税率を抑えることで、総合的な税負担を軽減することに成功しました。
ケーススタディ2:夫婦でのマイクロ法人化
田中さん夫妻(仮名)は、夫婦でコンサルティングの副業を行っており、定年後にそれを法人化しました。田中さんは合同会社という法人形態を選ぶことで、設立費用と維持費を抑えつつも、法人化のメリットを活用することを目指しました。
夫妻は役員報酬を適切に分け合い、それぞれが低めの報酬を受け取ることで個人の所得税を抑え、同時に法人税もコントロールしました。また、法人名義で必要な備品や交通費などを経費として計上し、経費の拡大も節税に大いに役立ちました。さらに、税理士との定期的な相談を欠かさず、常に最適な節税策を取り入れることで、法人運営を安定させています。
ケーススタディ3:副業としてのネットショップ運営
佐藤さん(仮名)は、定年後に趣味で始めたハンドメイド製品のネット販売を法人化しました。法人化することで、自宅の一部を事務所として経費計上し、家賃や光熱費の一部を経費にすることができました。また、製品の材料費や発送費用も法人経費として処理し、個人での活動よりも効率的に節税することが可能になりました。
佐藤さんは、自分の生活費を最適化するために役員報酬を適度に設定し、余剰利益は法人内に留保することで、将来の投資資金として運用する計画を立てています。これにより、安定した収入を得ながら趣味をビジネスに変え、第二の人生を楽しんでいます。
成功のポイント
- 税理士の活用:ケーススタディで共通する成功の要因は、税理士などの専門家と綿密に相談しながら法人運営を行った点です。税制の知識は複雑であり、専門家の助言を得ることで無駄なリスクを避けることができます。
- 収入規模に応じた報酬設定:役員報酬と配当所得を組み合わせることで、個人と法人それぞれの税負担を最適化することが可能です。これにより、総合的な税率を下げることができるため、計画的な報酬設定が重要です。
- 適切な法人形態の選択:合同会社や株式会社など、法人形態は複数ありますが、自分の状況に最も適した形態を選ぶことで、設立・運営コストを抑えることができます。
マイクロ法人を設立することで、税金対策のみならず、事業の安定性と将来の資産運用にもつながる可能性があります。定年後の新しい挑戦として、法人化は魅力的な選択肢となり得るでしょう。ただし、事前の計画と専門家のアドバイスをしっかりと取り入れ、無理のない形で運営を進めることが成功への近道です。
総括
- 株式譲渡に関する注意点として、譲渡時の税負担や名義変更の手続きの適正さに特に注意し、譲渡所得税や評価額のリスクを管理することが重要です。
- 役員報酬の設定については、適正な金額に設定し、税務署に疑念を持たれないようにすることが必要です。報酬額は法人の利益と個人の所得税のバランスを取りながら、合理的な額に決めることが求められます。
これらの対策を講じながらマイクロ法人を運営することで、税務リスクを最小限に抑えつつ、節税効果を狙うことが可能です。
上記のスキームで株式配当を使用しマイクロ法人を立ち上げ、副業で個人事業主になる。二刀流になる事でさらに節税が出来ればと思います。どちらにしても老齢年金以外に副収入が無いと意味ないので稼ぐ力をみにつけたいですね! ⇩
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