2025年5月16日、米格付け会社ムーディーズは、米国債の長期信用格付けを最上位の「Aaa」から「Aa1」へと1段階引き下げました。これにより、ムーディーズ、S&P、フィッチの格付け大手3社がすべて米国債の格下げを行ったことになります。この判断は世界の金融市場や政治に波紋を広げています。
ムーディーズの格下げ理由と市場の反応
ムーディーズが格下げに踏み切った主な理由は、以下の通りです:
- 米国の累積債務が36兆ドルに達したこと
- 財政赤字が恒常的に拡大していること
- 金利負担が急増していること
- 歴代政権および連邦議会が財政再建に向けた実効的な措置を講じていない点
この格下げ発表を受けて、10年物米国債の利回りは一時4.49%まで急上昇。債券価格は下落し、投資家心理にも不安が広がりました。
ホワイトハウスはこの格下げを政治的動機によるものと非難し、ムーディーズのエコノミストに対し強い言葉で反発を示しました。
格付けの意義──メリットとデメリット
信用格付けは金融市場において重要な役割を果たしますが、同時に課題も孕んでいます。
メリット
- 投資判断の基準:投資家が債券の信用リスクを見極める指標。
- 情報の透明性向上:情報の非対称性を減らし、市場の効率性を高める。
- 資金調達コストの低減:高格付け企業は低金利での資金調達が可能。
デメリット
- 利益相反の可能性:発行体から報酬を得るモデルにより、格付けの公正性が疑問視されることも。
- 過去の評価ミス:サブプライム危機時の格付け過大評価が記憶に新しい。
- 市場過敏化:格下げによる市場の過剰反応がリスクを増幅させる可能性。
債務上限問題と財政赤字の拡大
米国政府の財政リスクは格付けだけに留まりません。2025年8月には、再び債務上限問題が顕在化すると予想されています。
1. 債務上限問題の深刻化
ベッセント財務長官は、政府資金が2025年8月に枯渇する可能性を警告。7月中旬までに議会が債務上限の引き上げに応じなければ、デフォルトの危機に直面する可能性があります。米議会予算局(CBO)も同様の見解を示しています。
2. 財政赤字と金利負担
巨額の減税政策や歳出拡大が続く中、財政赤字は拡大を続けています。格下げにより、米国債の利回りが上昇し、利払い負担がさらに重くなる悪循環も懸念されます。
3. 政治的分断の影響
共和党は2017年の大型減税を恒久化しようとしており、10年間で最大5.2兆ドルの赤字拡大が予想されています。一方で、民主党政権側は成長優先を主張しており、政策の不透明感が高まっています。

ベッセン財務長官の対応策
- 債務上限の早期調整:市場の信認を確保するためには、7月中の合意が不可欠。
- 財政健全化への行動:歳出削減や課税ベースの見直しなど、中長期的な健全財政の道筋を示す必要があります。
- 投資家との信頼回復:透明な情報開示と政策実行により、格下げリスクを和らげる努力が求められます。
トランプ政権(再登場想定)と格下げの関係性
ムーディーズの格下げがトランプ政権の関税政策に直接影響を与える可能性は低いものの、財政赤字やインフレへの懸念が政策転換の引き金になる可能性があります。
関税政策と財政の関係
トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ、大型減税+関税強化を推進。この構造はむしろ財政赤字を拡大させる要因となっています。
例:2025年の公約では、中国への全面関税、自動車関税(最大60%)、メキシコ国境税などが挙げられています。これらは供給網の混乱やインフレを再燃させるリスクがあります。

米経済の持続的成長に向けた提言
今回の格下げを契機に、以下のような経済政策の再構築が求められます。
- インフラ投資(財源付き):道路、再エネ、デジタル通信への投資。PPP導入により財政負担を軽減。
- 税制改革:法人税の適正課税と租税回避対策。
- 労働市場政策:AI・IT分野の人材強化、リスキリング政策の推進。
- 通商政策の見直し:WTOとの連携強化により、報復関税の応酬を回避。
- 財政ルールの確立:持続可能な予算編成と債務管理戦略の導入。
年末までの投資戦略:不確実性の時代に備えた戦略ポートフォリオ(モデル例)
以下は2025年末までの不確実なマクロ環境を前提とした、モデルポートフォリオの一例です。
資産クラス | 配分割合 | 投資目的・補足説明 |
国内外ディフェンシブ株(生活必需品・ヘルスケア) | 30% | 景気変動に強いセクターで安定したキャッシュフローが魅力 |
高格付け債券(米・日・独など) | 25% | リスクオフ時の資産防衛と利回り確保 |
インフレヘッジ資産(金・REIT・資源株) | 15% | 実物資産への分散、インフレに対する耐性を補完 |
現金・短期国債 | 10% | 機動的な投資対応用、安全資産として保有 |
グロース株・テクノロジーセクターETF | 10% | 成長期待の高い分野へのアクセント投資(高ボラティリティ) |
為替ヘッジ・通貨分散(円・ドル・ユーロ・資源国通貨) | 10% | ドル安・インフレリスクを考慮した地域分散 |
備考:
- 年末にかけての債務上限問題や大統領選に向けた政局の混乱がリスク要因。
- ポートフォリオは四半期ごとの見直しを前提に柔軟に調整。
- 株式部分は個別銘柄よりもETFやセクターインデックスを活用し、リスク分散を重視。
総括:米国の財政と市場の未来に必要な視点
ムーディーズの格下げは、単なる市場イベントではなく、「米国の財政持続性に対する信頼」の転換点とも言える出来事です。今後の市場安定と経済成長のためには、トランプ再政権・バイデン政権いずれであっても、短期の人気取り政策ではなく、中長期の制度設計と信頼の再構築が求められます。
投資家にとっても、年末までの市場の不透明感を見据えた「守りの戦略」が必要不可欠です。世界経済のリスクシナリオを視野に入れた、柔軟かつ分散されたポートフォリオ構築が求められる局面にあると言えるでしょう。



コメント