老後の生活を支える柱「公的年金」。その受取額は年金定期便に明記されていますが、実際に振り込まれる金額は「満額」ではありません。そこから税金や保険料が差し引かれるため、実質的な手取り額は想像以上に少なくなる場合も。
本記事では、年金定期便に記載された金額を元に、差し引かれる税金・社会保険料の仕組みをわかりやすく解説するとともに、少しでも多く手取りを確保するための節税テクニックを紹介します。
1. 年金から差し引かれる税金と社会保険料とは?
65歳以上の年金受給者が対象となる主な控除は、以下の3項目です:
▶ 所得税
公的年金も課税対象です。所得控除後に残る課税所得に応じて、所得税が発生します。
▶ 住民税
所得税とは別に、地方自治体に納める税金です。所得水準が低くても「均等割」「所得割」など一定額が発生するケースがあります。
▶ 介護保険料
65歳以上の方は全員、第1号被保険者として「介護保険料」を納付します。これは原則として年金から天引きされます。
※ 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料は別途納付です。
2. 年金受給における課税の仕組み
2-1. 公的年金等控除
公的年金には「公的年金等控除」が適用され、課税対象となる金額が軽減されます。
年金収入額 | 公的年金等控除額 |
~180万円以下 | 110万円 |
180万円超~330万円以下 | 年金収入×25% + 65万円 |
例:年金収入180万円 → 110万円控除 ⇒ 課税対象は70万円
2-2. 所得控除
課税対象の「雑所得」からさらに各種所得控除を差し引き、課税所得を算出します。
控除項目 | 控除額(目安) |
基礎控除 | 48万円 |
社会保険料控除(国保・介護等) | 約20万円前後 |
配偶者控除(要件あり) | 最大38万円 |
仮に年金収入が180万円で、社会保険料控除20万円がある場合: 70万円(雑所得)-68万円(控除合計)= 課税所得2万円
3. モデルケース:さいたま市在住・年金180万円夫婦の実態
▼ 前提条件
項目 | 内容 |
年齢 | 夫65歳、妻55歳 |
年金額 | 年額180万円(月15万円) |
世帯構成 | 夫婦2人暮らし |
妻の年収 | 250万円(扶養対象外) |
その他収入 | なし |
▼ 税金・社会保険料の内訳(推計)
項目 | 年間負担額(概算) |
所得税 | 約1,000円 |
住民税 | 約6,000円 |
国民健康保険料 | 約70,000円 |
介護保険料 | 約40,000円 |
合計控除額 | 約117,000円 |
▼ 実質手取り額
年金総支給額 | 1,800,000円 |
控除合計 | 約117,000円 |
手取り年額 | 約1,683,000円 |
手取り月額 | 約140,250円 |
4. 節税対策をフル活用するには?
年金生活でも、以下の節税術を活用すれば手取りアップにつながります。
① 社会保険料控除の最大化
介護保険料・国保などは全額控除の対象。納付記録を確実に残しておきましょう。
② 医療費控除
年間医療費が10万円以上なら、確定申告で控除可能。薬局や病院の領収書、介護費用の一部も含まれます。
③ 生命保険料控除
生命・医療・個人年金保険の支払いも、各種控除対象。証明書は毎年保管を。
④ 寄附金控除(ふるさと納税)
年金収入でも寄附金控除は有効。少額からでも返礼品+節税効果を得られます。
5. 老後の税負担を減らす戦略的な工夫
▶ 年金の繰下げ受給
- 繰下げ1ヶ月ごとに0.7%増額(最大5年で42%増)
- 老後にまとまった資金が不要なら、繰下げにより将来の受給額アップ+課税時期の後ろ倒しも可能
▶ 退職金のタイミング調整
- 退職金は「退職所得控除」の対象で非常に有利
- 年金との重複受給を避けることで、課税額の平準化に
6. 手続き・申告時の注意点
- 節税効果を得るには、確定申告が必要なケースが多い
- 控除対象となる費用の領収書保管を徹底する
- ふるさと納税などはワンストップ特例を利用すれば申告不要だが、複数自治体に寄附するなら申告が必要
7. 年金生活での節税まとめ
節税策 | 効果 |
社会保険料控除 | 支払った金額がそのまま控除対象 |
医療費控除 | 医療負担が大きい年に有効 |
生命保険料控除 | 年間支払額に応じて最大12万円控除 |
ふるさと納税 | 税軽減+返礼品 |
年金繰下げ・退職金の調整 | 年間収入を調整し課税を平準化 |
最後に:老後こそ賢く、節税で「手取りアップ」
年金収入があっても、実際に手にできるのは税金・社会保険料を差し引いた後の「手取り額」です。老後の限られた収入を最大限活かすためには、制度を正しく理解し、確定申告などの手続きを欠かさず行うことが重要です。
ふるさと納税や医療費控除、保険料控除など、少しの工夫で数万円単位の節税が可能になります。将来の安心のため、今から準備を始めましょう!


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