2026年に入り、金融市場で静かに広がっている不安があります。それが「プライベートクレジット(民間信用)」市場の波乱です。かつてウォーレン・バフェットは「潮が引いたとき、誰が裸で泳いでいたかが分かる」と言いました。今まさに、この市場はその潮の変わり目を迎えているのかもしれません。今回は、急拡大してきた米国プライベートクレジット市場の現状と、そこに深く関与する日本企業をご紹介します。そして、パニック局面での「出口殺到」というリスクを踏まえ、長期・高配当投資家としてどう対処すべきかを考えます。
プライベートクレジットとは何か
まず「プライベートクレジット(プライベートデット)」とは何かを整理しておきましょう。簡単に言えば、銀行を介さずに、投資ファンドなどが企業に直接資金を貸し付ける仕組みです。主に未公開企業や中堅・中小企業への融資が対象となります。
2008年のリーマン・ショック後、銀行が規制強化によって中小企業向け融資から撤退せざるを得なくなりました。その空白を埋めるように急成長したのが、このプライベートクレジット市場です。
格付け会社ムーディーズによれば、世界の運用残高は2026年に約2兆ドル規模(約300兆円)、2030年には4兆ドルに迫る勢いとされています。2009年時点の約2,000億ドルと比べると、わずか15年余りで10倍超に膨らんだ計算です。
銀行が「貸せない」ところへ高利回りを求めて資金が流れ込む——その構造は、2008年以前のサブプライムローンの拡大と重なる部分があると指摘されています。利回りが魅力的である反面、透明性が低く、換金(解約)が難しいという特徴があります。
日本企業の関わり:主要プレイヤーを一覧で確認
米国プライベートクレジット市場は、遠い国の話ではありません。日本の大手金融機関や証券会社が、さまざまな形で深く関わっています。投資家として保有する可能性がある主な日本企業・機関をまとめました。
| 企業・機関名 | 主な関わり方 | 提携先(米国) | 注目度 |
|---|---|---|---|
| 大和証券グループ本社(8601) | ブラックストーンのプライベートクレジットファンドを日本国内で販売。2023年に公募投信「ダイワ・ブラックストーン・プライベート・クレジット・ファンド」を設定・販売 | ブラックストーン・グループ | ⚠ 最も直接的 |
| 野村ホールディングス(8604) | 野村證券がGSプライベート・クレジット戦略投信を販売。グループとしてプライベートクレジット商品の組成・販売に積極的 | ゴールドマン・サックス | △ 注意 |
| 三井住友フィナンシャルグループ(8316) | 2024年に米投資ファンド大手KKRと提携し、プライベートクレジットと公社債投資を組み合わせた運用商品を富裕層向けに展開 | KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ) | △ 注意 |
| SBIホールディングス(8473) | SBI証券でKKRのプライベートクレジットを含む公募投資信託を取り扱い。2025年に日本初の日々設定・解約可能なプライベートクレジット公募投信を販売 | KKR | △ 注意 |
| オリックス(8591) | 2025年11月にカタール政府系ファンド(QIA)と共同で国内PE投資プラットフォームを設立。アセットマネジメント拡大戦略の一環でプライベートアセット領域を強化 | QIA(カタール投資庁) | △ 注意 |
| 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) | 三菱UFJ信託銀行・アセットマネジメント部門がオルタナティブ投資推進。機関投資家向けにプライベートデット商品のファンド・オブ・ファンズ形式での提供実績あり | 複数の外資系運用会社 | ○ 間接的 |
なかでも大和証券グループは、ブラックストーンのBCREDを日本の個人投資家に向けて積極的に販売してきました。現在そのファンドは解約請求の増大という渦中にあり、大和証券は2026年3月時点で「正確な情報発信によって投資家の不安解消に努めている」とコメントしています。
今、市場で何が起きているのか
相次ぐ解約停止と資金流出
米ブルー・アウル・キャピタルのテクノロジー特化ファンドが、2026年2〜3月に解約請求に対応できず、償還手続きを停止しました。また、業界最大手ブラックストーンのBCREDでは、2026年第1四半期に通常の上限(5%)を超える7.9%の解約請求が発生し、幹部が自腹で資金を補填するという異例の対応に迫られました。アレス・マネジメントやアポロ・グローバル・マネジメントも、資金の引き出しを要求額の半分以下に制限しています。
デフォルト率の上昇
2025年末に米サブプライム自動車ローン会社トライカラー、修理・交換用部品メーカーのファースト・ブランズが相次いで破綻。2026年初頭に米国プライベートクレジットのデフォルト率は5.8%と、ここ数年で最高水準に達しました。JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは2025年10月に「ゴキブリを1匹見かけたら、もっとたくさんいるはずだ」と警告を発していました。
「SaaSの死」とAIの波
プライベートクレジットの主要な貸付先の一つが、担保の乏しいソフトウェア(SaaS)企業でした。ところがAIの台頭により、多くのSaaSビジネスモデルが崩壊。融資先の信用力が急速に低下し、それが貸し手ファンドの評価損につながっています。透明性の低いプライベート市場では、こうした損失が「見えにくい」ために、不安が想像以上に広がりやすい構造があります。
- 流動性リスク:非上場ローンの換金(解約)が困難で、投資家が殺到すると資金繰りが詰まる
- 透明性の欠如:評価は内部推定が多く、損失の実態が見えにくい。銀行のような開示義務がない
- 高金利時代の構造矛盾:変動金利ローンが主流のため、借り手企業のキャッシュフローを金利上昇が直撃している
バフェットの「出口殺到」警告:何を意味するのか
ウォーレン・バフェットは長年にわたり、「流動性の罠」について繰り返し警告を発してきました。
パニックが市場に広がれば、多くの投資家が出口に殺到する。しかしそのドアは一枚しかない。
— ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイ株主総会)これはプライベートクレジット市場にそのまま当てはまります。このような非流動性資産では、平時には誰も気にしない「換金できない」という事実が、パニック時に一気に露呈します。「Only when the tide goes out do you discover who’s been swimming naked(潮が引いたとき初めて、誰が裸で泳いでいたかが分かる)」——好況期には問題が隠れていますが、景気の変わり目や信用収縮局面になると、リスクが一気に可視化されるのです。
高配当株投資家として、どう判断すべきか
①直接保有する高配当株への影響
まず、私たちが保有するインフラ・製造業・食品・通信などの高配当株は、プライベートクレジットとの直接の関わりは基本的に薄いです。したがって、プライベートクレジット市場の混乱がすぐさま配当に影響することは、多くのケースで考えにくいと言えます。
②金融株(銀行・証券)への波及リスクは?
問題は、高配当銘柄として人気が高い金融セクターです。上記の表でも挙げた三菱UFJ・SMFG・野村・大和証券・SBI・オリックスなどが、プライベートクレジットに深く関与しています。現時点では野村證券の分析によれば「足元は個別問題にとどまっており、信用リスクが金融システム全体に波及するリーマン・ショック的な状況ではない」との見方が中心です。ただし、「まだ見えていないリスク」がある可能性は否定できません。
③市場全体の波及と日本株への影響
米国プライベートクレジット市場で資金流出が連鎖した場合、米国株市場の調整を通じて日本株市場にも影響が出ます。特に円高が進みやすい局面でもあり、輸出関連銘柄には逆風となります。一方、内需型の高配当株(通信・電力・食品など)への相対的な選好が高まる可能性があります。
長期投資家としての結論:控えるべき銘柄と継続すべき姿勢
- 大和証券グループ本社(8601):ブラックストーンのBCREDを主力で販売している立場上、解約増加→販売手数料収入の低下→レピュテーションリスクが最も直接的に影響しやすい
- 野村ホールディングス(8604):グループ全体でプライベートクレジット商品を積極展開。信用収縮局面での業績変動に注意
- プライベートクレジット系の公募投信そのもの:高利回りを謳う商品は流動性リスクが高く、解約制限に遭う可能性がある。特に新規購入は見送りが賢明
- BDC(事業開発会社)関連ETF・投信:米国BDCはNAVを大幅に下回る水準で取引されており、更なる下落リスクがある
- 本業がプライベートクレジットに依存しない高配当株を継続保有:インフラ(東京ガス・大阪ガスなど)、通信、食品(日本ハム・東洋水産など)は影響が限定的
- 連続増配・DOE指標で銘柄の質を確認:財務基盤がしっかりした企業は、信用収縮局面でも減配リスクが低い
- 金融株は保有比率の見直しを:プライベートクレジット関連業務が大きい証券株は、比率を落としてセクター分散を図る
- 現金・短期国債の比率を意識的に高める:パニック時に「安く買える」余力を確保することが、長期投資家の最大の武器
- 情報収集を継続しつつ、焦って行動しない:バフェットの言う「他人が恐れているときに貪欲に」の姿勢を保つ
孫子の兵法から学ぶ:「知己知彼、百戦不殆」
孫子は「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」と説きました。投資においても、相手(市場・リスク)を正確に把握し、自分の資産状況・リスク許容度を冷静に見つめることが「百戦不殆(ひゃくせんあやうからず)」の道です。プライベートクレジット市場の不安定化は、「彼を知る」うえで重要な情報です。しかし、それをもって闇雲に全てを売却したり、逆に無視して何もしないのは、どちらも正しい対応ではありません。自分のポートフォリオにおける金融セクターの比率、プライベートクレジット関連商品の有無、そして定年後の生活費に占める配当収入の重要度——これらを「己を知る」視点でしっかり確認することが、今この局面では最も重要な一歩です。
📝 この記事のまとめ
プライベートクレジット市場は2兆ドル規模に膨らんだ末、2026年に入り解約停止・デフォルト増加という「出口の渋滞」が顕在化しています。
日本企業では大和証券(ブラックストーン提携)・野村HD(GS提携)・三井住友FG(KKR提携)などが深く関与。これらの株式への投資は短期的に慎重姿勢が賢明です。
高配当株投資家としては、プライベートクレジット依存度の低いインフラ・通信・食品系銘柄を主軸に継続保有し、金融株の比率見直し・現金余力の確保を行うことが合理的な対応です。
バフェットの教え——「出口は一枚しかない」——を胸に刻み、パニックに流されず、長期の視点で淡々と行動することが、私たちシニア投資家の真骨頂です。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・商品への投資を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容は2026年4月1日時点の情報に基づきます。
