レアアースとは

― 半導体・EV・地政学リスク、そして日本の海底資源戦略 ―

はじめに

近年、「レアアース(希土類元素)」という言葉をニュースや投資関連の話題で目にする機会が急激に増えています。
半導体、電気自動車(EV)、風力発電、AI、軍事技術――。
これら最先端分野のほぼすべてにおいて、レアアースは欠かせない存在となっています。

一方で、レアアースは単なる「技術素材」にとどまらず、国家安全保障や地政学リスクを左右する戦略物資としての側面も強めています。
本記事では、初心者の方にもわかりやすく、かつ中長期の視点で理解できるように、レアアースの全体像を整理していきます。


1.レアアースとは何か?

1-1 レアアースの定義

レアアース(Rare Earth Elements)とは、周期表における以下の17元素の総称です。

  • ランタノイド15元素
    (セリウム、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウムなど)
  • スカンジウム
  • イットリウム

「レア(希少)」という名称から、地球上にほとんど存在しないような印象を受けますが、実際には地殻中に広く分布しています。
問題は「存在量」ではなく、経済的・環境的に取り出すことが非常に難しい点にあります。


1-2 なぜレアアースは重要なのか

レアアースが重宝される理由は、その特殊な物理・化学特性にあります。

  • 非常に強い磁性を持つ
  • 熱や摩耗に強い
  • 光の波長制御に優れる
  • 電気特性を精密に制御できる

これらの特性により、レアアースは現代のハイテク産業の「縁の下の力持ち」となっています。


2.レアアースと半導体の関係

2-1 半導体製造装置との関係

レアアースは、半導体チップそのものだけでなく、製造装置や工程部材にも幅広く使われています。

  • プラズマ制御用部材
  • 精密モーター用磁石
  • 研磨材(CMP工程)
  • 薄膜形成用の特殊材料

半導体の微細化が進めば進むほど、こうした材料の品質要求は厳しくなり、高純度レアアースの重要性が増していきます


2-2 半導体材料としてのレアアース

一部の化合物半導体では、レアアースや関連元素が直接材料として使われます。

  • ガリウム系半導体(GaN、GaAs)
  • ゲルマニウム系材料
  • 光通信・高周波用途

AI、5G/6G、自動運転などの普及は、レアアース需要をさらに押し上げる要因となっています。


3.なぜ中国がレアアースを支配しているのか

3-1 採掘だけでなく「精製」がカギ

現在、世界のレアアース供給は以下のような構造になっています。

  • 採掘:中国 約70%
  • 分離・精製:中国 約90%以上

レアアースは、採掘よりも分離・精製工程が圧倒的に難しい資源です。
この工程では、

  • 有害な廃液処理
  • 放射性物質(トリウム等)の管理
  • 大量の水・薬品使用

が必要となり、環境規制の厳しい国ほどコストが上がります。

中国は長年にわたり、環境コストを内部化せずに供給網を構築してきた結果、世界的な独占的地位を築きました。


3-2 レアアースは「武器」になる

2010年の日中関係悪化時、中国がレアアース輸出を制限したことは記憶に新しい出来事です。
この経験から、レアアースは単なる資源ではなく、外交・安全保障のカードであることが明確になりました。


4.中国以外でもレアアースは採れるのか?

結論から言えば、採れる地域は存在します

主なレアアース資源国

  • オーストラリア(Mt. Weld鉱山)
  • ベトナム
  • ブラジル
  • アメリカ
  • グリーンランド

しかし多くの国では、

  • 採算性
  • 環境問題
  • 精製インフラ不足

といった理由から、鉱床があっても本格開発に至らないケースが多いのが実情です。


5.日本の切り札「海底レアアース資源」

5-1 南鳥島沖のレアアース泥

日本が世界から注目されている理由の一つが、南鳥島沖の深海に存在するレアアース泥です。

  • 水深約5,000~6,000m
  • 重希土類が高濃度
  • 埋蔵量は世界有数と推定

特にネオジム、ジスプロシウムなど、EVや風力発電に不可欠な元素を豊富に含んでいる点が大きな特徴です。


5-2 なぜ「海底」なのか

陸上鉱山と異なり、海底レアアース泥は、

  • 爆破不要
  • 比較的柔らかい堆積物
  • 表層に近い

という特徴があり、環境負荷を抑えた回収が理論上可能とされています。


6.海底資源開発を支える日本企業と技術

6-1 中核は国主導プロジェクト

海底レアアース開発は、JAMSTEC(海洋研究開発機構)を中心とした国主導プロジェクトとして進められています。
民間企業は、その技術パートナーとして参画しています。


6-2 海底資源技術に関わる主な企業

■ 東洋エンジニアリング

  • 海底からレアアース泥を回収する揚泥システム
  • 深海対応の装置設計・エンジニアリング

■ 三井海洋開発

  • 海洋掘削技術の応用
  • サブシー(海底)技術のノウハウ

■ 古河機械金属

  • 採鉱・掘削機械の技術
  • 海底採掘向け装置開発の可能性

■ 鉱研工業

  • ボーリング・掘削技術
  • 海底探査機器分野での実績

■ 三井E&S

  • 大水深対応の海洋機器・構造物技術

6-3 ゼネコン・建設会社の役割

いわゆる大手ゼネコンは、直接「レアアースを掘る」わけではありませんが、

  • 海洋土木
  • 海底インフラ
  • 作業船・プラットフォーム建設

といった分野で、海底資源開発に不可欠な基盤技術を保有しています。

特に東亜建設工業は、大学・研究機関と連携し、水中ロボットや海中作業技術の分野で注目されています。


7.レアアースと投資・国家戦略の視点

レアアースは今後、

  • 半導体の高度化
  • EV・再生可能エネルギー拡大
  • 地政学リスクの高まり

という3つの流れが重なり、中長期的に戦略的重要性が増す資源であることは間違いありません。

日本にとって海底レアアースは、
「資源を持たない国」から
「技術で資源を生み出す国」へ転換する可能性を秘めています。


おわりに

レアアースは、決して派手な存在ではありません。
しかしその裏側で、現代文明の基盤を静かに支えています。

今後、半導体・AI・エネルギーを語るうえで、
レアアースを理解することは不可欠です。

そして日本は、
「技術」「海洋」「環境配慮」という強みを活かし、
世界のレアアース地図を書き換える可能性を持っています。

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