1. 遺族年金とは?どんな制度か簡単に解説
遺族年金とは、家計の担い手である方(被保険者)が亡くなった際に、残された家族の生活を支えるために支給される公的年金です。
「万一」の時に、遺族(家族)が経済的に困窮しないよう、日本の社会保障制度の柱のひとつとなっています。
日本の遺族年金には、以下の2つの制度があります。
- 遺族基礎年金(国民年金)
- 遺族厚生年金(厚生年金)
この2つの制度は、それぞれ受給できる対象者や条件、金額が異なります。
本記事では、これらの制度の違いと受給条件、金額の目安、手続き、よくある質問まで詳しく解説します。
2. 遺族基礎年金(国民年金)の仕組みと受給条件
2-1. 対象者は?
遺族基礎年金の受給対象となるのは、「子のある配偶者」または「子のみ」です。
子の定義
- 18歳到達年度の末日までの子
- 障害等級1級または2級の状態にある20歳未満の子
つまり、「18歳までの子がいる家庭」または「障害のある20歳未満の子がいる家庭」が基本対象となります。
夫が亡くなり、妻と18歳未満の子がいる場合、妻が受け取れます。子のみでも可。
2-2. 支給要件
- 亡くなった方が国民年金の被保険者(現役または老齢年金受給者も含む)であること
- 生計維持関係があること(多くは同居)
さらに、「死亡日の前日時点で、保険料納付済期間+免除期間が加入期間の2/3以上」が必要です。
※例外的に直近1年間納付で良い特例(令和8年3月まで)があるので注意。
2-3. 金額(2024年度)
- 基本:年額 795,000円
- 子の加算
- 第1子・第2子:各229,000円
- 第3子以降:各76,000円
例
- 妻と2人の子の場合:
795,000円+229,000円×2=1,253,000円/年

3. 遺族厚生年金(厚生年金)の仕組みと受給条件
3-1. 対象者は?
遺族厚生年金は、亡くなった方が厚生年金に加入中または受給中である場合に、以下の家族が支給対象となります。
- 配偶者(多くは妻)
- 子
- 孫
- 父母
- 祖父母
※優先順位があり、まず配偶者・子、それ以外は子や配偶者がいない場合のみ。
原則、「生計を維持されていた」ことが条件です。
3-2. 支給要件・認定基準
- 亡くなった方が厚生年金加入者、もしくは老齢厚生年金受給権者であること
- 配偶者(妻)が「生計維持関係」にあったこと
- 保険料納付要件(基礎年金と同様)
生計維持の基準
- 年収850万円未満(細かくは130万円未満でより明確)
- 夫の収入で主に生活していたと判断できる場合
- 同居、または別居でも仕送りがあれば認定される場合も
3-3. 年金額(計算方法)
- 原則、夫の老齢厚生年金報酬比例部分の3/4
- 例:年140万円なら、140万円×3/4=105万円/年
参考:加算制度
- 中高齢寡婦加算
40歳以上65歳未満の子のない妻に約59万円/年が加算されることがあります(※働いている妻は該当しないことが多い)。 - 寡婦年金、加給年金などは一部条件で別途。
4. 遺族年金の併給・併給制限(遺族年金+自分の年金)
4-1. 併給できる?制限は?
- 遺族基礎年金と自分の老齢基礎年金は選択式(どちらか一方のみ受給)
- 遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金は一部併給可能(ただし調整あり)
4-2. 併給例
- 子のある妻:遺族基礎年金+遺族厚生年金を受給
- 子が独立後、妻が40歳以上65歳未満:遺族厚生年金+中高齢寡婦加算
- 子や配偶者がいなければ、両親や祖父母が遺族厚生年金の対象となることも
5. 「会社員の妻」でも遺族年金はもらえるか?
5-1. よくある誤解
「妻が会社員だと遺族年金はもらえないのでは?」という誤解が多いですが、条件を満たせば受給できます。
5-2. 受給要件のポイント
- 生計維持関係があったかが重要。
⇒ 妻が自分で働いていたとしても、年収850万円未満であれば通常認定されます。
※年収130万円未満であれば明確。 - 夫の保険料納付要件を満たしていれば、妻が会社員でもOK
5-3. 子どもがいる場合・いない場合
- 子どもが18歳未満の場合
→ 遺族基礎年金+遺族厚生年金を妻が受給 - 子どもがいない場合
→ 遺族厚生年金のみ(生計維持要件を満たす場合)
5-4. よくあるケース例
状況 | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 |
---|---|---|
妻が会社員、子あり | ◯ | ◯ |
妻が会社員、子なし | × | ◯ |

6. 遺族年金の具体的な計算例とケーススタディ
ケース:夫70歳、妻62歳、夫死亡、妻は会社員(年収270万円)、子なし
前提
- 夫:基礎年金+厚生年金=年200万円受給中
- 妻:会社員、年収270万円
- 子供:18歳未満なし
受給できる遺族年金
- 遺族基礎年金:×(子がいないため対象外)
- 遺族厚生年金:◯(夫の厚生年金部分の3/4が支給)
試算例
- 夫の年金内訳:基礎年金60万円+厚生年金140万円
- 妻の遺族厚生年金:140万円×3/4=105万円/年
加算について
- 中高齢寡婦加算:妻が会社員なので該当せず
- 寡婦年金:国民年金1号被保険者のみで該当せず
「生計維持」認定ポイント
- 妻の年収は270万円で850万円未満
- 夫と同居していた
- ⇒「生計維持関係あり」と認定され、支給対象となる
手続き・注意点
- 年金事務所に「死亡届」「遺族年金請求書類」を提出
- 妻が65歳以降は、自分の老齢年金(基礎+厚生)との併給調整が必要
7. 遺族年金の税金(非課税)と生活設計での注意
7-1. 税金はかからない
- 遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)は、所得税・住民税とも非課税
- 国税庁の公式見解でも明記(障害年金も同様に非課税)
7-2.生活設計アドバイス
- 共働き世帯の場合、「妻が自身の老齢年金を将来受給できる」ので、遺族年金だけで生活設計しないことが重要
- 住宅ローン団信や生命保険と遺族年金を組み合わせて備えるのが安全
- 子供の年齢が近い場合、支給期間が短くなりやすいので教育費対策も必須
- 手続き漏れ・申請忘れに注意(特に遺族厚生年金は要申請)
8. 遺族年金の受給パターン早見表
家族構成 | 支給される年金 |
---|---|
妻+子 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金 |
子のみ(母なし) | 遺族基礎年金+遺族厚生年金(子に) |
妻(子なし) | 遺族厚生年金のみ(中高齢寡婦加算も) |
両親・祖父母 | 子や配偶者がいなければ遺族厚生年金 |
9. よくある質問(FAQ)
Q1. 妻が会社員だと遺族年金はもらえませんか?
→ 生計維持関係が認定されればもらえます。年収850万円未満ならほぼOK。
Q2. 遺族年金の申請は自動で行われますか?
→ 原則、要申請です。年金事務所で手続きを。
Q3. 遺族年金と自分の年金は両方もらえますか?
→ 一部併給、一部は選択制です。特に遺族基礎年金と自分の基礎年金は選択、遺族厚生年金は調整併給。
Q4. 生命保険や団信だけで十分ですか?
→ 遺族年金と併用が理想的です。万一の際、受給額・期間・生活設計の確認を。
10. まとめ:遺族年金を正しく理解し、安心できる生活設計を
遺族年金は、家計を支えていた方が亡くなった際に家族の生活を支える公的な仕組みです。
特に「妻が会社員」の場合でも、生計維持の要件を満たしていればしっかり受給できます。
ただし、子供の有無・年齢や妻の年齢によっても受給金額や期間が異なりますので、最新の制度や自分の状況を確認することが大切です。
- 申請忘れに注意(特に遺族厚生年金は申請が必要)
- 将来の老齢年金や生命保険、住宅ローン団信とのバランスを考えた生活設計を
- 不明点があれば、年金事務所やFP、社会保険労務士に相談するのがおすすめです
【まとめ】
- 遺族年金は生計維持要件を満たせば会社員の妻も受給可能
- 遺族基礎年金は子どもの有無・年齢に注意
- 遺族厚生年金は夫の年金額の3/4が原則
- 申請手続きは忘れずに
- 受給中は税金がかからない(非課税)
- 将来の生活設計の一部としてしっかり確認を



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