日本は急速な高齢化社会を迎えています。総人口に占める65歳以上の割合は、2024年9月15日時点の推計では、高齢者人口は前年比2万人増の3,625万人となり、総人口に占める割合も0.2ポイント上昇し、29.3%に達しています。
このような状況下で、高齢者の就労促進と年金制度の改革は、将来世代への影響を考える上で重要な課題となっています。
高齢者の就労状況と年金制度の現状
近年、高齢者の就業率は上昇傾向にあります。例えば、60代後半の就業率は直近10年間で約14%上昇し、70代前半でも約11%上昇しています。
これは、高齢者の健康状態の改善や労働意欲の高まり、そして企業側の人手不足への対応策としての高齢者雇用の推進が背景にあります。
一方で、年金制度においては「在職老齢年金」制度が存在します。これは、一定の収入を得ている高齢者の年金受給額を減額する仕組みであり、高齢者の就労意欲に影響を及ぼす可能性があります。
在職老齢年金制度の概要
在職老齢年金制度は、年金受給者が働きながら一定以上の収入を得ている場合に、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。この制度は、高齢者の就労と年金受給のバランスを図り、年金財政の健全性を維持することを目的としています。
対象者
- 65歳以上70歳未満の方:厚生年金保険の被保険者として働いている場合。
- 70歳以上の方:厚生年金保険の適用事業所で働いている場合。
支給停止の基準
年金の基本月額と総報酬月額相当額(給与と賞与の合計)の合計が、支給停止調整額を超えると、超えた部分の半額が年金から支給停止されます。2024年度の支給停止調整額は50万円です。
計算例
- 基本月額:20万円
- 総報酬月額相当額:35万円
- 合計:20万円 + 35万円 = 55万円
- 超過額:55万円 – 50万円 = 5万円
- 支給停止額:5万円 × 1/2 = 2.5万円
- 支給される年金額:20万円 – 2.5万円 = 17.5万円
年金支給20万円と仕事35万円で支給停止調整額50万円だと超過5万円の半額分2.5万円が年金から減額となります。
制度の目的
この制度は、高齢者の就労意欲を維持しつつ、年金財政の健全性を確保することを目的としています。しかし、年金の減額が就労意欲を削ぐ可能性が指摘されており、制度の見直しが検討されています。
高齢者就労促進の必要性
高齢者の就労促進は、以下の点で重要です。
- 労働力人口の確保:少子高齢化により労働力人口が減少する中、高齢者の就労は労働力不足の解消に寄与します。
- 社会保障制度の持続可能性:高齢者が働き続けることで、税収や社会保険料の増加が期待でき、年金制度の財政基盤強化につながります。
- 高齢者の生活の質向上:就労は高齢者の生きがいや社会参加の機会を提供し、生活の質の向上に寄与します。
※税収の確保も目的の一つかもしれません。
年金制度改革の方向性と将来世代への影響
高齢者の就労促進を阻害しないためには、在職老齢年金制度の見直しが検討されています。具体的には、減額基準の緩和や廃止が議論されています。これにより、高齢者の就労意欲が高まり、労働市場への参加が促進されると期待されています。
しかし、年金制度改革には将来世代への影響も考慮する必要があります。高齢者の年金受給額が増加すると、年金財政の負担が増大し、将来世代の給付水準が低下する可能性があります。そのため、年金制度の持続可能性を確保しつつ、高齢者の就労促進を図るバランスの取れた改革が求められます。
まとめ
高齢者の就労促進と年金制度改革は、少子高齢化が進む日本において避けて通れない課題です。高齢者の労働市場への参加を促進しつつ、年金制度の持続可能性を確保するためには、在職老齢年金制度の見直しや高齢者の就労環境の整備が必要です。これらの取り組みを通じて、将来世代への負担を軽減し、持続可能な社会保障制度の構築を目指すことが求められます。
在職老齢年金額限度額の上限が増えると働きながら年金を受給した方がリアルのキャッシュフローが上がります。すると国が推奨する年金受給の繰り下げと相反する事となりますが、みなさんのライフプラン(寿命や健康寿命等)も含め様々な要因を考慮して判断していただきたいと思います。
参考資料
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