はじめに
2025年1月20日、トランプ大統領が再任しました。就任演説では、前政権でも注目を集めた保護主義的な通商政策をさらに強化し、いわゆる「トランプ関税」を実施する計画を明らかにしました。これらの発言は、早速東京市場にも影響を及ぼしています。本記事では、トランプ関税の全容や米国・日本を含むグローバル市場への影響について解説します。
1. トランプ関税の概要
1-1. メキシコ・カナダへの25%関税
トランプ大統領は2025年2月1日より、メキシコとカナダからの輸入品に一律25%の関税を課す計画を打ち出しました。これは、不法移民や薬物の流入を抑制する目的があるとされていますが、実際には保護主義的な色彩が強い政策です。
メキシコ・カナダからの主要輸入品目
- メキシコ:自動車・自動車部品、電子機器、農産物、アルコール飲料など
- カナダ:エネルギー製品(原油・天然ガス)、木材・製材品、自動車・部品、農産物・食品など
両国は米国にとって主要な貿易相手であるため、こうした輸入品への高関税は、米国内だけでなくサプライチェーンを持つ外国企業や米国消費者にも波紋を広げる可能性があります。
1-2. BRICS諸国・スペインへの「最大100%関税」検討
さらにトランプ大統領は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのいわゆるBRICS諸国に加え、スペインからの輸入品に対して最大100%の関税を課す可能性にも言及しました。これらの国々が米ドルに対抗する新たな通貨を創設しないよう圧力をかける狙いがあるとされています。
近年はサウジアラビア、イラン、アラブ首長国連邦、エチオピア、エジプトなども加わった「BRICS+」が、自国通貨による取引を推進する動きがあり、米国としてはドル覇権を維持するために高関税カードをちらつかせていると見られます。
1-3. 新たな徴税機関「External Revenue Service」の創設
今回の関税強化に合わせて設立が発表されたのが「External Revenue Service(外部歳入庁)」です。関税やその他の税収を集中的に管理・徴収し、米国財政を強化する役割を担います。トランプ大統領は「これにより製造業が活性化し、国内経済が潤う」と強調していますが、実効性や企業負担の増大などへの懸念もくすぶっています。
※1月21日、中国からの輸入品に対して10%の関税をかけることを検討していると述べました。

2. 関税政策の背景と法的根拠
2-1. 選挙公約としての「ベースライン関税」と「トランプ互恵通商法」
トランプ大統領は2024年の選挙公約で、以下2つの政策を掲げていました。
- ベースライン関税
全世界からの輸入品に対して一律10~20%の関税を課す案。米国内産業の保護および貿易赤字の是正が目的とされています。 - トランプ互恵通商法
貿易相手国が米国製品に課している関税率と「同率」の関税をその国からの輸入品に対して課す政策。貿易相手国に対して“対等”を求める姿勢が示されています。
いずれも1962年通商拡大法232条、1974年通商法301条、国際緊急経済権限法(IEEPA)などを根拠にし、実施される可能性が指摘されています。
3. 経済・市場への影響
3-1. 米国内のインフレと消費者負担
トランプ関税が発動すれば、輸入コストの上昇は企業だけでなく消費者にも転嫁されると考えられます。日用品や食料品など身近な製品の価格が上がり、インフレが加速する懸念があります。輸入に依存する製造業や小売業ではコスト上昇による利益圧迫や雇用減少のリスクも指摘されています。
3-2. 国際貿易協定との衝突と報復関税リスク
新関税は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)や他の自由貿易協定と衝突する可能性があり、法的課題が予想されます。また貿易相手国は対抗措置として報復関税を導入するかもしれず、世界的な貿易摩擦の激化が懸念されます。
3-3. 株式市場への影響
関税強化は米国内企業のコスト構造や世界的なサプライチェーンに影響を及ぼすため、株式市場にも波及する可能性が高いです。一方で、減税政策やインフラ投資など、トランプ大統領が打ち出している他の経済政策はプラス材料となる面もあり、一概に悲観視ばかりもできない状況です。
トランプ大統領のその他の経済政策
- 減税政策: 2017年の減税策延長や追加減税の提案 → 企業利益拡大の期待
- インフラ投資: 大規模インフラ投資 → 建設業や関連セクターに追い風
- 移民政策強化: 労働市場の供給制限・人件費上昇 → 一部産業にコスト増の懸念

4. 日本への波及と注目セクター
4-1. 自動車メーカーへの直接的影響
日本企業で特に懸念されるのが、メキシコやカナダに生産拠点を持ち、米国向け輸出を行っている自動車メーカーです。25%という高率の関税は、ホンダ、マツダ、日産などに直接影響を与える可能性があります。その結果、北米市場での競争力低下や価格転嫁の難しさから、収益の圧迫につながるリスクがあると指摘されています。
4-2. 注目される業種・銘柄
一方で、トランプ政権の方針が追い風となり得る業種や企業もあります。
- エネルギー関連企業
- トランプ氏の化石燃料増産策やシェールオイル生産拡大 → エネルギー関連需要増
- 液化天然ガス(LNG)の輸送需要増 → 造船・海運企業への恩恵
- 例:造船業のジャパンマリンユナイテッド株式会社(非上場)や、海運業の日本郵船株式会社(9101)、商船三井株式会社(9104)などが挙げられます。
- 防衛関連企業
- 防衛費の増加要請 → 日本の防衛装備品製造・供給企業の受注増期待
- 例:三菱重工業(7011)、川崎重工業(7012)などが挙げられます。
- 規制緩和の恩恵を受ける企業
- 金融業界や暗号資産関連企業など → 規制緩和でビジネス拡大の可能性
- 例:三菱UFJ FG(8306)、SBI HD(8473)などが挙げられます。
ただし、これらの見通しはトランプ政権の政策運営や国際情勢に左右されるため、最新情報を踏まえた慎重な投資判断が求められます。
5. 金融政策とインフレ懸念
5-1. 米国FRBと日銀の動向
米国ではインフレ懸念が徐々に後退してきたという見方もあり、FRBによる利下げの可能性が浮上しています。一方、日本は日銀の利上げを予想する向きが強まっており、これが株価を押し上げきれない要因の一つともなっています。
5-2. トランプ政権によるインフレ要因
トランプ大統領の保護主義的な関税政策は、長期的には輸入コスト増大を通じてインフレ要因となる可能性があります。日本でも「今後インフレになった場合、利下げ余地を残すために早めの利上げに踏み切るのでは」という思惑が市場にあるようです。
まとめ
トランプ大統領の再任に伴い発表された新たな関税政策「トランプ関税」は、米国国内産業の保護や貿易赤字の是正を目的として打ち出されたものの、実際には世界的な貿易摩擦とインフレ懸念を高める要因になり得ます。メキシコやカナダからの輸入品への関税引き上げは、サプライチェーンを通じて日本企業を含む多くの海外企業にも影響を及ぼすでしょう。
一方、エネルギー関連や防衛関連企業、規制緩和の恩恵を受ける企業などは新政策のプラス面を享受できる可能性があります。しかし、これらのシナリオは常に国際情勢や政治的動向に左右されるため、投資家や企業経営者にとってはリスク管理と最新情報の収集が欠かせません。
米国の利下げ観測や日本の利上げ観測など、金融政策も世界経済の行方に大きく影響します。インフレ動向や関税の具体的な適用状況を注視しながら、慎重な判断を下すことが求められるでしょう。
本記事で紹介した内容は2025年1月時点の情報に基づいており、その後の政策変更や国際情勢の変化によって影響を受ける可能性があります。投資や事業戦略を検討する際には、必ず最新の情報を確認し、専門家の助言を得ることをおすすめします。


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