申請手続き・受け取れるお金・税金のポイントをやさしくご紹介
日本の社会保険制度には、ケガや病気で仕事ができなくなったり、生活が困難になったりしたときに支えになる「傷害保険(労災保険)」と「障害年金」があります。ここでは、それぞれの制度の仕組みや申請方法、もらえるお金、そして税金がかかるかどうかなどを分かりやすくまとめました。万が一のときに備えて、ぜひ目を通してみてくださいね。

1. 傷害保険(労災保険の一部)
■ 概要
傷害保険は、正式には労働者災害補償保険(労災保険)と呼ばれる制度の一部です。仕事中や通勤途中にケガや病気、障害を負ったり、死亡してしまったりした場合に補償を受けることができます。
■ 主な給付内容
- 療養補償給付
仕事中や通勤中に負ったケガや病気の治療費を負担してもらえます。指定の病院で治療を受けると自己負担はありません。 - 休業補償給付
治療のために仕事を休んでいる期間中に、平均賃金の60%が支給されます。 - 障害補償給付
ケガや病気が治った後に、体に障害が残ってしまった場合に年金または一時金が支給されます。障害の程度に応じて、1級から14級に分かれています。 - 遺族補償給付
業務上の事故などで亡くなった場合、残されたご家族に年金または一時金が支給されます。 - その他の給付
介護が必要な場合の「介護補償給付」や、葬儀にかかる費用を助ける「葬祭料」なども含まれます。
■ 特徴
- 保険料は会社(事業主)が全額負担しているため、働く人は保険料を払う必要がありません。
- 仕事との因果関係が認められる(業務起因性がある)かどうかで給付の対象になるかが決まります。
2. 障害年金保険(公的年金の一部)
■ 概要
障害年金は、公的年金(国民年金や厚生年金)の中に含まれている制度です。病気やケガが原因で、日常生活や仕事に大きな支障が出たときに、一定の条件を満たせば年金として支給されます。
■ 主な給付内容
- 障害基礎年金(国民年金)
国民年金に加入しているすべての人が対象です。1級または2級の障害に該当する場合に支給され、年金額は一定額(1級は2級の年金額の1.25倍)となっています。 - 障害厚生年金(厚生年金)
厚生年金に加入している会社員や公務員の方向けで、1級・2級に加えて3級も対象となります。金額は「報酬比例部分」と「定額部分」で計算されます。 - 障害手当金(厚生年金)
3級より軽い障害の場合、一時金で支給されることがあります。
■ 特徴
- 国の定める障害認定基準を満たしているかどうかで、支給の可否が決まります。
- 病気やケガの「初診日」が年金に加入していた期間にあることが条件です。
- 障害状態が続いている限り支給されます。
■ 支給要件
- 初診日要件
病気やケガで初めて受診した日が、国民年金や厚生年金に加入していた期間であること。 - 保険料納付要件
初診日の前日までに、一定期間の保険料をきちんと納付するか免除を受けている必要があります。 - 障害等級要件
国が定める1級〜3級、またはそれに該当しないかを判定します。

3. 傷害保険(労災保険)と障害年金保険の違い
項目 | 傷害保険(労災保険) | 障害年金保険(公的年金) |
---|---|---|
対象 | 業務上または通勤中の障害 | 病気やケガ全般 |
給付条件 | 業務との因果関係(業務起因性) | 保険料の納付状況、初診日など |
費用負担 | 事業主負担 | 加入者(本人または事業主と折半など) |
給付内容 | 医療費、休業補償、年金など | 年金または一時金 |
業務中かどうか、保険料をだれが負担しているかなどが異なるため、申請方法や給付される内容も変わってきます。
4. 申請手続きの流れ
■ 傷害保険(労災保険)の申請手続き
- 対象者
仕事中または通勤中にケガや病気を負った労働者。 - 申請の流れ
- 事故発生後の対応
すぐに医師の診察を受けます。労災指定病院であれば治療費は原則かかりません。 - 必要書類の準備
- 療養補償給付請求書(様式第5号)
- 休業補償給付請求書(様式第8号)
- 障害補償給付請求書(様式第10号) など
- 提出先
その会社を管轄している労働基準監督署へ提出します。 - 審査と給付
労働基準監督署が書類を確認し、給付が認められれば指定の口座にお金が振り込まれます。
- 事故発生後の対応
- 注意点
- 会社(事業主)へは、ケガや病気の状況を早めに伝えてください。
- 業務上で起こったことかどうかの証明が必要となります。
■ 障害年金保険の申請手続き
- 対象者
病気やケガで日常生活や仕事が困難になり、一定の障害状態が続いている方。 - 申請の流れ
- 初診日の確認
どの医療機関で初めて診察を受けたかを証明する必要があります。 - 必要書類の準備
- 障害年金請求書
- 診断書(障害状態を詳しく書いたもの)
- 受診状況等証明書(初診日を証明するための書類)
- 年金加入記録を証明する書類(年金手帳や基礎年金番号通知書) など
- 提出先
お近くの年金事務所や市区町村の役場へ。郵送でも可能です。 - 審査と認定
日本年金機構が書類をチェックし、障害等級に該当すると認められれば年金受給が決定します。 - 年金の支給開始
認定されたあとは、偶数月(2・4・6・8・10・12月)に2か月分ずつ振り込まれます。
- 初診日の確認
- 注意点
- 保険料の納付状況が基準を満たしているかどうかを必ず確認しましょう。
- 医師の診断書の内容が等級を左右するため、よく相談して作成してもらいましょう。
5. 保険金について
■ 傷害保険(労災保険)の保険金額の例
- 休業補償給付の例
- 平均賃金(日額):10,000円
- 休業日数:30日
- 給付率:平均賃金の60%
- 特別支給金:平均賃金の20%(会社負担分)
- 休業補償給付金:10,000円 × 60% × 30日 = 180,000円
- 特別支給金:10,000円 × 20% × 30日 = 60,000円
- 合計支給額:240,000円
- 障害補償給付の例
- 障害等級:5級
- 平均賃金(日額):10,000円
- 支給基準日数:313日
- 年金額:10,000円 × 313日 = 3,130,000円(年額)
- 遺族補償年金の例
- 遺族1名(配偶者のみ)
- 平均賃金(日額):12,000円
- 給付率:153日
- 年金額:12,000円 × 153日 = 1,836,000円(年額)
■ 障害年金保険の保険金額の例
- 障害基礎年金(国民年金)の例
- 障害等級:2級
- 年金額:約99万円/年(令和6年度時点)
- 子ども2人分の加算:22万円×2人 = 44万円
- 年間支給額:99万円 + 44万円 = 143万円
- 障害厚生年金(厚生年金)の例
- 障害等級:2級
- 平均標準報酬月額:30万円
- 加入期間:30年
- 報酬比例部分の計算:
(30万円 × 5.481/1000) × 30年 = 492,300円 - 配偶者加給:224,700円
- 年間支給額:492,300円 + 224,700円 = 717,000円
- 障害基礎年金と障害厚生年金を合算する場合の例
- 障害基礎年金:99万円/年
- 障害厚生年金:71.7万円/年
- 合計年金額:99万円 + 71.7万円 = 170.7万円/年
6. 給付金にかかる税金はある?
■ 傷害保険(労災保険)
労災保険から支給されるお金は、すべて「非課税」です。
- 療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付など、いずれも課税の対象にはなりません。
■ 障害年金
障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)も同じく「非課税」です。
- 生活を支えるための公的保障という理由から、所得税や住民税はかかりません。
ただし、たとえば「障害年金の支給が遅れていた分の利息」など、例外的に課税対象になることがまれにあります。民間保険の給付金の場合も、契約内容によっては課税が発生する場合があるので注意してください。
7. まとめ
- 傷害保険(労災保険) … 仕事や通勤中のケガや病気などをカバーしてくれます。会社が保険料を払っているので、働く人は負担がありません。
- 障害年金保険(公的年金) … 病気やケガで日常生活や仕事がしにくくなった場合に支給される公的年金です。障害等級や初診日、保険料の納付状況などの条件をクリアする必要があります。
- 給付金は基本的に非課税となっており、いざというときの大きな支えになります。
どちらの制度も、書類準備や手続きが複雑になることがあります。専門家(社会保険労務士など)に相談するとスムーズに進められるので、困ったときは頼ってみると安心です。
毎月の社会保険料は大きな負担ですが、もし障害を負ってしまったときには、こうした制度が手厚くサポートしてくれます。知らないと損することも多いので、これを機に少しずつ理解を深めてみてください。


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