「遺族厚生年金」とは、厚生年金に加入している方が亡くなったとき、その方の遺族が受け取れる年金です。2025年から、この制度に大きな改正が予定されています。まずは現在の遺族年金制度の基本をおさえた上で、これからどのように変わるのかを見ていきましょう。
1. 遺族年金の基本区分
遺族年金には大きく分けて、次の2種類があります。
- 遺族基礎年金
国民年金(自営業や学生などが多く加入)に入っていた方が亡くなった場合に、その方によって生計を支えられていた「子のいる配偶者」または「子」に支給されます。 - 遺族厚生年金
厚生年金保険(会社員や公務員など)に入っていた方が亡くなった場合に、その方によって生活を支えられていた「配偶者」や「子」、あるいは「55歳以上の条件を満たす夫・父母・祖父母」などに支給されます。
ここでは**「遺族厚生年金」**の改正内容を主に解説していきます。
2. 遺族厚生年金の仕組み(基本)
支給対象(受給要件の例)
- 亡くなった方が「厚生年金保険に加入している期間」に亡くなった場合
または - 亡くなった方が老齢厚生年金・障害厚生年金を受け取る資格があり、その一定の要件を満たしていた場合
これらの条件を満たす方の「配偶者や子」などが受給できます。ただし、配偶者が夫の場合は55歳以上など、細かい条件があるので要注意です。
支給金額
- 原則として、亡くなった方の報酬比例部分(給与などに応じて計算される)による老齢厚生年金の4分の3が遺族厚生年金として支給されます。
- 妻が40歳〜65歳未満で子どもがいない場合には「中高齢寡婦加算」が上乗せされるなど、家族構成や年齢によって加算や調整があります。
老齢年金との調整
- 自分の老齢年金を受け取れるようになると、遺族厚生年金との“同時受給”は基本的にできず、一部または全部が支給停止になることがあります。
- これは「一人一年金の原則」と呼ばれ、老齢厚生年金と遺族厚生年金のどちらか一方を優先的に選ぶ形になることが多いです。
3. 過去・近年の主な改訂ポイント
遺族年金制度は、頻繁に大きく変わるわけではありませんが、細かい見直しや適用範囲の拡大などが行われてきました。主なポイントを紹介します。
- 年金受給開始時期の選択幅拡大(繰下げ受給の最大年齢引き上げ)
- 2022年4月から老齢年金の繰下げ受給を最大75歳まで選択できるようになりました。
- 老齢年金を繰下げると、遺族厚生年金との調整のタイミングにも影響することがあるため、選択の際には注意が必要です。
- 遺族厚生年金の支給要件に関する見直し議論
- 厚生年金に短期間だけ加入して亡くなった場合に支給されるかどうかなど、国会でたびたび議論が行われています。
- 将来的には少子高齢化や働き方の多様化にあわせ、支給要件や給付の内容が見直される可能性があります。
- 事実婚(内縁)や同性パートナーへの適用に関する議論
- 戸籍上の婚姻関係ではなくても、生計をともにしている事実婚の場合、証明次第で認められるケースがあります。
- 一方で、同性パートナーは現在の制度上、支給対象になっていませんが、今後の法改正や社会情勢によっては適用範囲が広がる可能性があります。
- 在職老齢年金との関係
- 在職老齢年金とは、働きながら年金を受け取る仕組みで、収入によって年金額が調整される制度です。
- 遺族厚生年金を受け取りながら働く場合も、何らかの影響を受けることが考えられます。
4. よくある質問・注意点
- 「老齢年金」と「遺族厚生年金」の重複受給はできる?
- 原則、一方を全額、もう一方は一部のみ受給という形になります。
- 金額がどのくらいになるかなど詳しいことは、年金事務所や専門家に相談すると安心です。
- 配偶者(妻以外のケース)はどうなる?
- 妻ではなく夫が受給する場合は「55歳以上であること」など細かい条件があります。
- また、実際の支給が始まるのは60歳以降とされるなど、妻とは異なるルールがあるので要注意です。
- 「中高齢寡婦加算」「経過的寡婦加算」とは?
- 子どものいない40歳~65歳未満の妻が受給する場合、一定の要件を満たすと「中高齢寡婦加算」がつきます。
- 65歳以降に老齢基礎年金を受け取れるようになると、この加算は消えますが、「経過的寡婦加算」が付くことがあります。
- 今後の制度改正によっては、内容が見直される可能性があるので要チェックです。
- 年金額の改定(物価スライド)
- 遺族厚生年金を含む公的年金は、毎年の物価や賃金の変動に合わせて見直されます(スライド制)。
- これは大規模な制度改正ではなく、毎年の通常改定として行われている点を押さえておきましょう。
5. まとめ
遺族厚生年金の基本的な仕組みは、受給対象や給付の考え方など大きくは変わっていません。しかし、老齢年金の繰下げ受給の拡大や雇用形態の多様化に伴って、一部の見直しが継続して行われています。
さらに年金額は、物価や賃金の変動によって毎年微調整されるため、タイミングによって実際の支給額が変わることがあります。
今後は家族の形(事実婚や同性パートナー)や高齢化の進展によって、遺族厚生年金の条件や加算の仕組みが変わる可能性も考えられます。実際の運用や最新情報は、厚生労働省や日本年金機構の公式発表をチェックしつつ、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
2025年から予定されている改正内容
2025年には、遺族厚生年金に大きな改正が予定されています。主な変更点をまとめました。
- 子のない配偶者への給付期間の変更
- 現行制度: 子のいない30歳未満の妻が夫と死別した場合、5年間の有期給付。30歳以上の妻や一定の要件を満たす夫は終身給付。
- 改正後: 20代から50代までの子のない配偶者が亡くなった配偶者を支えていた場合、男女ともに5年間の有期給付に統一。
- 60歳以降に配偶者を亡くした場合は、現在の制度どおり終身で支給される見込みです。
- 有期給付加算の創設
- 有期給付となる5年間の間、生活再建をサポートするための「有期給付加算」が検討中です。
- 具体的な増額幅は、今後の法改正で明らかになる予定です。
有期給付加算とは、2025年から導入が検討されている新しい制度で、遺族厚生年金を有期(5年間など)でしか受給できない遺族(子のない配偶者など)に対して、一定期間だけ上乗せの年金を支給するしくみです。
現行制度では、若い年齢の妻(30歳未満)に子がいない場合、遺族厚生年金は5年間の有期給付で終わってしまいます。一方、2025年の改正後は、子のない配偶者が一定の年齢で配偶者を亡くした場合に、男女問わず5年間の有期給付に統一される予定です。
その際、有期給付だけでは生活再建が難しいケースをサポートする目的で、**「有期給付加算」**という形で年金額を増額することが検討されています。具体的な増額の金額や要件については、今後の法改正で詳細が明らかにされる予定です。
- 死亡時分割の導入
- 亡くなった方が厚生年金に加入していた期間を、残された配偶者の老齢厚生年金に上乗せできる制度が新設される見込みです。
- これにより将来的に、遺された配偶者の年金額が増える可能性があります。
- 生計維持要件の見直し
- 「収入要件」(前年の収入が850万円未満)を撤廃し、同一生計なら高収入でも受給できるようになる改正案が出ています。
- 中高齢寡婦加算の廃止
- 子のいない40歳以上65歳未満の妻に上乗せされていた「中高齢寡婦加算」が、段階的に廃止される予定です。
- これによって、男性・女性で制度が異なる点を減らそうとしています。
これらの改正は、男女間の不平等を少しでも減らし、現代のライフスタイルに合った年金制度をめざす取り組みです。具体的な時期や詳細は、今後の法改正の流れを注視していく必要があります。公式情報は厚生労働省や日本年金機構のサイトなどで随時公開されるので、定期的に確認しましょう。

さいごに
社会保障制度や年金制度は、その都度改訂や見直しが行われています。複雑な上に改正も多く、気づかないうちに大切な情報を見落としてしまうこともあります。だからこそ、日頃から意識して情報を収集し、自分の状況に合った制度を理解しておくことが大切です。
分からない点や確認したいことがあるときは、年金事務所や社会保険労務士などの専門家に相談するのがおすすめです。最新情報をきちんと把握し、国の福祉をしっかり活用していきましょう。


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