定年再雇用、本当に得なのは何歳?|在職老齢年金・雇用保険・社会保険で60歳・65歳・70歳の手取りを比較【2026年最新】

「定年後も働くつもりだけど、結局いくら手元に残るのだろう」

50代後半になると、多くの方がこの疑問にぶつかります。会社から示されるのは額面の給与だけです。しかし、実際に銀行口座へ振り込まれるお金は、そこから社会保険料と税金が引かれた後の金額です。

しかも60歳以降は、給与のほかに年金雇用保険の給付が加わります。逆に在職老齢年金という仕組みで、年金の一部が止まることもあります。

この記事では、60歳・65歳・70歳という3つの節目で何が変わるのかを整理し、モデルケースで年間の手取りを比べてみます。2026年8月時点の制度に基づいた内容です。

  1. 🧭 はじめに|「給料はいくら?」だけでは老後の働き方は決められない
  2. 📊 まず結論|60歳・65歳・70歳で制度はこう変わる
  3. 👨‍💼 60歳|再雇用で給与が下がると何が起きる?
    1. 高年齢雇用継続給付とは
    2. ⚠️ 最大10%になったことに注意
    3. 社会保険料は引き続き必要
    4. 💥 定年直後の住民税ショック
  4. 👴 65歳|「給与+年金」の時代が始まる
    1. 収入のかたちが入れ替わる
    2. 高年齢雇用継続給付は終了
    3. 老齢基礎年金・老齢厚生年金
    4. 🧮 在職老齢年金とは
    5. 2026年度は「65万円」が基準
    6. ✅ 老齢基礎年金は停止の対象外
  5. 🧮 在職老齢年金を具体例で計算してみよう
    1. ケースA:合計65万円以下 → 減額なし
    2. ケースB:合計65万円超 → 一部が停止
  6. 💡 年金を減らされないために給与を減らすべきなのか?
  7. 👴 70歳|厚生年金保険料がなくなると手取りはどうなる?
    1. 厚生年金の被保険者資格
    2. 70歳以上被用者とは
    3. ⚠️ 在職老齢年金は続く
    4. 健康保険は75歳まで
  8. 🏢 65歳を超えても雇用保険はある
    1. 高年齢被保険者
    2. 高年齢求職者給付金
  9. 📊 モデルケース|60歳・65歳・70歳の年間手取りを比較
    1. Aさんの前提
    2. 在職老齢年金の判定
    3. 60歳の高年齢雇用継続給付
    4. 💰 手取り比較表(年間)
  10. 📈 グラフで見る「額面年収」と「本当の手取り」
    1. ここが一番のポイントです
  11. 🔄 「手取りが逆転する」ことがある
    1. ✅ 額面は下がったのに、思ったほど手取りが減らないケース
    2. ⚠️ 逆に、額面ほど手取りが増えないケース
  12. 💴 65歳以降は税金の計算も変わる
  13. 📋 年齢別|そのとき「何を見るべきか」
  14. ✅ 60歳になる前に会社へ確認したい7項目
  15. ⚠️ 実際の手取りが人によって違う5つの理由
  16. 🎯 まとめ|見るべきなのは「給与」ではなく「給与+年金+給付-負担」
  17. 🔗 あわせて読みたい
  18. 📚 主な参考資料
  19. ⚖️ 免責事項

🧭 はじめに|「給料はいくら?」だけでは老後の働き方は決められない

定年後の働き方を考えるとき、多くの方が最初に見るのは再雇用後の給与額です。ここがスタートなのは自然なことです。

ただし、それだけでは判断を誤ります。理由は3つあります。

  • 年齢によって引かれるものが変わるから(厚生年金保険料は70歳で終わります)
  • 年齢によって加わるものが変わるから(65歳から公的年金が入ります)
  • 働き方によって年金が調整されるから(在職老齢年金です)

つまり、見るべきなのは次の式です。

給与 + 年金 + 雇用保険給付
- 社会保険料 - 税金 - 在職老齢年金による支給停止
= 最終的な可処分所得(手取り)

ここがこの記事のいちばん大事なところです。順番に見ていきましょう。

📊 まず結論|60歳・65歳・70歳で制度はこう変わる

細かい説明の前に、全体像をつかんでおきましょう。年齢ごとに「何が始まり、何が終わるのか」を並べたものが下の図です。

👔 59歳まで
フルタイム勤務。給与から健康保険・厚生年金・雇用保険・税金が引かれます。
👨‍💼 60歳|定年・再雇用
  • 給与が下がることが多い
  • 高年齢雇用継続給付の対象になる可能性
  • 社会保険料は引き続き引かれる
  • 💥 住民税は前年の高い所得ベース
👴 65歳|年金受給が本格化
  • 老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始
  • 高年齢雇用継続給付は終了
  • 在職老齢年金の判定が始まる
  • 雇用保険は高年齢被保険者
  • 介護保険料が給与天引きから年金天引きへ
👴 70歳|厚生年金保険料が終わる
  • 厚生年金の被保険者資格を喪失=保険料の本人負担なし
  • ただし在職老齢年金の判定は続く
  • 健康保険は原則そのまま継続
👵 75歳|後期高齢者医療制度へ
それまでの健康保険を抜け、後期高齢者医療制度に移ります。

ここがポイントです。「70歳で健康保険が終わる」わけではありません。 健康保険が切り替わるのは75歳です。この点を混同した説明をよく見かけるので、注意してください。

👨‍💼 60歳|再雇用で給与が下がると何が起きる?

60歳で定年を迎え、そのまま再雇用で働き続けるケースが一般的になりました。多くの会社で、このタイミングに給与が下がります。

高年齢雇用継続給付とは

給与の低下を一部おぎなうのが、雇用保険の高年齢雇用継続基本給付金です。ハローワークの説明では、対象は「雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者」とされています。

支給されるのは、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて75%未満に低下した状態で働き続ける場合です。

注意したいのは、給料が下がれば必ずもらえる制度ではないということです。下がり方が75%以上(たとえば80%までしか下がっていない)なら、対象になりません。

⚠️ 最大10%になったことに注意

ここは古い情報が非常に多く残っている部分です。

かつての支給率は最大15%でした。しかし2025年(令和7年)4月1日以降に受給資格を満たす方については、最大10%に縮小されています。2025年3月31日以前に要件を満たした方は、従来の最大15%が続きます。

支給率のイメージは次のとおりです。

60歳時点と比べた賃金 支給率(賃金に対して)
75%以上(あまり下がらなかった) 支給なし
75%未満〜64%超 低下率に応じて0%〜10%の間
64%以下(大きく下がった) 10%

つまり「少し下がった人は少しだけ、大きく下がった人は10%」という設計です。

💡 なお、支給限度額もあります。厚生労働省の案内では、2026年8月1日以降の支給対象期間について支給限度額は397,369円とされています。支給対象月の賃金がこの額以上のときは支給されません。この限度額は毎年8月に見直されます。

社会保険料は引き続き必要

60歳を過ぎても、厚生年金・健康保険・雇用保険はそのまま続きます。給与が下がった分だけ保険料も下がりますが、負担がなくなるわけではありません。

参考までに、2026年度の本人負担率の目安を挙げておきます(協会けんぽ東京支部の場合)。

  • 健康保険:約5.04%(40〜64歳は介護保険分を加えて約5.85%)
  • 厚生年金:9.15%
  • 雇用保険:0.5%(一般の事業)

合わせるとおよそ15%です。ここに所得税と住民税が加わります。

💥 定年直後の住民税ショック

ここは絶対に知っておいてほしいところです。

住民税は前年の所得をもとに計算され、翌年6月から支払います。つまり、60歳で給与が下がっても、その年に払う住民税は59歳のときの高い所得で決まっているのです。

のちほど紹介するモデルケースで計算すると、こうなります。

時期 年収 その年に納める住民税
再雇用1年目 360万円 約26万円(前年540万円ベース)
再雇用2年目以降 360万円 約15万円(前年360万円ベース)

差は年間で約11万円、月に直すと約1万円です。「給料は下がったのに、税金が高いままだ」と感じる正体がこれです。

📌 対策はシンプルです。再雇用1年目は手取りが特に薄くなると最初から見込んでおくこと。可能であれば、退職前に1年分の住民税相当を別に取り分けておくと安心です。

👴 65歳|「給与+年金」の時代が始まる

65歳は、収入の構造そのものが変わる年です。

収入のかたちが入れ替わる

60〜64歳
給与
高年齢雇用継続給付
社会保険料
税金
= 手取り
65〜69歳
給与
公的年金
健康保険・厚生年金・雇用保険
税金
在職老齢年金による調整
= 実質手取り

高年齢雇用継続給付は終了

高年齢雇用継続基本給付金が支給されるのは「60歳に達した月から65歳に達する月まで」です。65歳を境に、この給付は入らなくなります。

代わりに公的年金が入り始めます。収入の柱が「雇用保険」から「年金」に交代する、と考えるとわかりやすいでしょう。

老齢基礎年金・老齢厚生年金

公的年金は大きく2階建てです。1階が老齢基礎年金(全員共通)、2階が老齢厚生年金(会社員として働いた分)です。この区別が、次の在職老齢年金の説明でとても重要になります。

🧮 在職老齢年金とは

在職老齢年金とは、働きながら年金を受け取る人について、給与と年金の合計額が一定を超えると老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される仕組みです。

ここで誤解が非常に多いので、はっきりさせておきます。

⚠️ 「基準を超えたら給与が減る」制度ではありません。給与はそのままです。減るのは老齢厚生年金のほうです。

2026年度は「65万円」が基準

判定に使う基準額を支給停止調整額といいます。日本年金機構によれば、2026年度(令和8年度)は月額65万円です。前年度の51万円から大きく引き上げられました。

使う数字は2つです。

  • 基本月額=加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
  • 総報酬月額相当額=その月の標準報酬月額 + 直近1年間の賞与の合計 ÷ 12

「総報酬月額相当額」は難しい言葉ですが、簡単に言えば毎月の給与だけでなく、1年間の賞与を12で割った金額も足して判定する数字です。ボーナスがある方は見落としやすいので気をつけてください。

判定の式はこうです。

基本月額 + 総報酬月額相当額 ≦ 65万円支給停止なし
65万円を超えるとき →
支給停止額 = (基本月額 + 総報酬月額相当額 - 65万円)÷ 2

✅ 老齢基礎年金は停止の対象外

これは必ず覚えてください。在職老齢年金で止まるのは老齢厚生年金だけです。日本年金機構も「老齢基礎年金および経過的加算額は全額支給となります」と明記しています。

つまり、1階部分の老齢基礎年金は、どれだけ働いても減りません。「働くと年金が全部止まる」というのは誤解です。

🧮 在職老齢年金を具体例で計算してみよう

では実際に計算してみましょう。2つのケースで見ます。

ケースA:合計65万円以下 → 減額なし

老齢厚生年金の基本月額 10万円
総報酬月額相当額 40万円
合計 50万円

50万円は65万円以下です。したがって支給停止はありません。老齢厚生年金10万円はそのまま受け取れます。もちろん老齢基礎年金も全額です。✅

ケースB:合計65万円超 → 一部が停止

老齢厚生年金の基本月額 15万円
総報酬月額相当額 60万円
合計 75万円

65万円を10万円超えています。支給停止額を計算します。

(75万円 - 65万円)÷ 2 = 5万円

したがって、老齢厚生年金15万円のうち5万円が支給停止となり、10万円が支給されます。

ここで大事なのは、給与60万円は1円も減っていないということです。この方の月々の収入は「給与60万円+老齢厚生年金10万円+老齢基礎年金」となります。

💡 年金を減らされないために給与を減らすべきなのか?

「年金を止められるくらいなら、勤務日数を減らしたほうが得では?」——よく聞く質問です。落ち着いて順番に考えてみましょう。

ケースBの方が、月給を1万円減らしたとします。

項目 変化
給与 -1万円
支給停止額(1万円÷2) -0.5万円 → 年金は+0.5万円
収入合計 -0.5万円

ここが肝心です。支給停止額は超過分の半分です。だから、給与を1万円減らしても年金は0.5万円しか戻りません。差し引きでは0.5万円のマイナスです。

逆に言えば、給与を1万円増やせば、年金が0.5万円減っても収入合計は0.5万円のプラスになります。ここから税金と社会保険料が引かれますが、それでもマイナスにはなりません。

結論:年金停止額だけを見て働く時間を減らすのは適切ではありません。見るべきは「給与+年金」の合計手取りです。

もちろん、体力や家族との時間を理由に働き方を減らすのは、まったく別の話です。ここで否定しているのは「年金が減るから」という理由だけで判断することです。

👴 70歳|厚生年金保険料がなくなると手取りはどうなる?

厚生年金の被保険者資格

厚生年金保険の被保険者資格は、原則として70歳で喪失します。保険料は70歳の誕生日の前日が属する月の前月分まで、というのが実務上の扱いです。

これは手取りに直結します。本人負担は9.15%です。月給20万円なら月約1.8万円、年間で約22万円の負担が消える計算になります。

70歳以上被用者とは

ただし「保険料が終わる=制度から外れる」ではありません。70歳を過ぎても厚生年金の適用事業所で一定の条件を満たして働く方は、70歳以上被用者として届出の対象になります。

⚠️ 在職老齢年金は続く

ここは誤解が非常に多い点です。「70歳になれば在職老齢年金もなくなる」わけではありません。

70歳以上被用者に該当する場合、厚生年金保険料の負担はなくても、在職老齢年金による年金の支給調整は引き続き行われます。会社が「70歳到達届」を提出するのは、まさにこの計算のためです。

整理すると、こうなります。

70歳になると どうなる
厚生年金保険料の本人負担 なくなる
厚生年金の被保険者資格 原則として喪失
在職老齢年金の判定 ⚠️ 続く場合がある(70歳以上被用者)
健康保険 原則として継続
雇用保険 要件を満たせば継続

健康保険は75歳まで

健康保険は70歳では終わりません。会社の健康保険に入って働き続ける限り、保険料も引かれ続けます。切り替わるのは75歳で、そのとき後期高齢者医療制度へ移ります。

なお、70歳から74歳の間は医療費の窓口負担割合が変わる方が多くいます。医療費の負担については、75歳以上の医療費はどう変わる?2割負担・高額療養費の年間上限をやさしく解説もあわせてご覧ください。

🏢 65歳を超えても雇用保険はある

高年齢被保険者

「65歳以降は雇用保険料を払わない」——これは古い情報です。現在は、65歳以降に加入要件を満たして働く方は高年齢被保険者となり、雇用保険料も引かれます。

高年齢求職者給付金

高年齢被保険者だった方が離職した場合、64歳までの基本手当(いわゆる失業手当)ではなく、高年齢求職者給付金の対象になります。

特徴を整理します。

項目 基本手当(64歳まで) 高年齢求職者給付金(65歳以降)
受け取り方 原則、分割で継続支給 一時金(一括)
被保険者期間1年未満 基本手当日額の30日分
被保険者期間1年以上 基本手当日額の50日分
老齢年金との関係 調整あり(特別支給の老齢厚生年金) 併給できる

📌 手続きは住所地のハローワークです。申請には期限があるので、離職したら早めに相談してください。

📊 モデルケース|60歳・65歳・70歳の年間手取りを比較

では実際に計算してみましょう。ここからは架空の会社員「Aさん」に登場してもらいます。

⚠️ これは制度を理解するためのモデルケースです。

実際の手取りは、給与・賞与・年金額・家族構成・健康保険組合・お住まいの自治体などで変わります。ご自身の金額は必ず年金事務所や勤務先でご確認ください。

Aさんの前提

年齢 年収(額面) 公的年金(年額)
59歳まで 540万円
60〜64歳(再雇用) 360万円
65〜69歳 300万円 220万円
70歳〜 240万円 220万円

計算に使った条件を明記します。

  • 東京都・協会けんぽ加入、単身(扶養親族なし)
  • 賞与なしの月給制として単純化(60歳時点の賃金月額45万円)
  • 年金220万円の内訳は老齢基礎年金80万円+老齢厚生年金140万円(基本月額 約11.7万円)
  • 2026年度の保険料率・2026年分の税制で計算
  • 生命保険料控除などの個別の控除は考慮せず
  • 住民税は前年も同じ収入だった場合(=2年目以降)で算出

在職老齢年金の判定

まずAさんが減額されるかを確認します。

年齢 基本月額 総報酬月額相当額 合計 判定
65歳 約11.7万円 25万円 約36.7万円 ✅ 65万円以下=停止なし
70歳 約11.7万円 20万円 約31.7万円 ✅ 65万円以下=停止なし

Aさんの水準では支給停止は発生しません。基準額が65万円に引き上げられたことで、多くの再雇用者は在職老齢年金の対象外になりました。ここは2026年度の大きな変化です。

60歳の高年齢雇用継続給付

60歳時点の賃金月額45万円が、再雇用で30万円になりました。低下率は約66.7%です。64%超75%未満のゾーンなので、支給率は10%ではなく約7.3%になります。

月額 30万円 × 7.3% ≒ 約2.2万円、年間で約26万円です。「下がったから10%」ではない、という良い例です。

💰 手取り比較表(年間)

年齢 給与 年金 雇用保険給付 社会保険料 税金 年金支給停止 最終手取り
60歳 360.0万 26.2万 ▲55.8万 ▲19.9万 310.5万
65歳 300.0万 220.0万 ▲51.9万 ▲29.2万 0万 438.9万
70歳 240.0万 220.0万 ▲20.5万 ▲27.6万 0万 411.9万

月平均に直すとこうなります。

年齢 額面の合計 年間手取り 月平均手取り
60歳 386.2万円 310.5万円 約25.9万円
65歳 520.0万円 438.9万円 約36.6万円
70歳 460.0万円 411.9万円 約34.3万円

⚠️ 社会保険料には、65歳以降の介護保険料(第1号被保険者・年金天引き)を含めています。65歳になると介護保険料は給与天引きから年金天引きに変わりますが、負担がなくなるわけではありません。ここも見落としやすいポイントです。

📌 再掲になりますが、60歳の再雇用1年目だけは住民税が前年(年収540万円)ベースになります。その年の住民税は約26万円、手取りは約299万円(月約24.9万円)まで下がります。

📈 グラフで見る「額面年収」と「本当の手取り」

数字だけだとイメージしにくいので、図にしてみます。まず年間の手取りを比べます。

👨‍💼 60歳(給与360万+給付26万)
310.5万円
👴 65歳(給与300万+年金220万)
438.9万円
👴 70歳(給与240万+年金220万)
411.9万円
※年間の可処分所得(手取り)。棒の長さは65歳を100として表示。

次に、額面から何が引かれて手取りになるのかを見てみましょう。65歳と70歳の比較です。

👴 65歳|額面 520.0万円 → 手取り 438.9万円
手取り 438.9万
社保
👴 70歳|額面 460.0万円 → 手取り 411.9万円
手取り 411.9万
社保
※帯の長さは各年齢の額面合計を100%として表示。

ここが一番のポイントです

70歳のAさんは、65歳のときより額面で60万円も少ない収入です。ところが手取りの差は約27万円にとどまります。

理由は明確です。厚生年金保険料の本人負担(年約27万円)がなくなったからです。額面が減った分の半分近くを、保険料の消滅が埋めています。

額面の減り方だけを見て「70歳まで働いても意味がない」と判断するのは、もったいない結論です。

🔄 「手取りが逆転する」ことがある

この現象には、両方向があります。

✅ 額面は下がったのに、思ったほど手取りが減らないケース

  • 年金の受給が始まった(65歳)
  • 厚生年金保険料の負担が終わった(70歳)
  • 公的年金等控除が使えるようになった
  • 所得が下がって税率区分・住民税が軽くなった

⚠️ 逆に、額面ほど手取りが増えないケース

  • 在職老齢年金で老齢厚生年金が止まった
  • 前年の高い所得をもとにした住民税がのしかかった
  • 給与と年金を合算した結果、税率区分が上がった
  • 介護保険料や後期高齢者医療の保険料が所得に連動して増えた

💡 つまり、額面の増減と手取りの増減は比例しません。判断するなら手取りで比べてください。

💴 65歳以降は税金の計算も変わる

65歳以降は、給与と年金という性質の違う2つの収入を持つことになります。この2つは足して税率を掛けるのではありません。

順番はこうです。

  1. 給与収入から給与所得控除を引いて「給与所得」を出す
  2. 年金収入から公的年金等控除を引いて「雑所得」を出す
  3. 両方ある場合は所得金額調整控除(最大10万円)で調整する
  4. 1〜3を合計して「合計所得金額」を出す
  5. そこから社会保険料控除・基礎控除などを引いて「課税所得」を出す
  6. 課税所得に税率を掛ける

公的年金等控除は、65歳以上と65歳未満で扱いが違います。65歳以上のほうが手厚く、公的年金等以外の所得が1,000万円以下で年金収入が330万円以下なら、控除額は110万円です。

Aさんの場合、年金220万円から110万円を引いた110万円が雑所得になります。220万円がまるごと課税されるわけではありません。

📌 また、2026年分(令和8年分)の所得税では基礎控除が拡充されています。合計所得金額132万円超336万円以下の方は88万円です。これは令和7年分・令和8年分の特例で、令和9年分以降は58万円に戻る予定です。今年と来年の手取りが、この分だけ有利になっている点は知っておくとよいでしょう。

なお、ここで示した税額はすべてモデル計算です。生命保険料控除、医療費控除、配偶者控除などがある方は、実際の税額が変わります。

📋 年齢別|そのとき「何を見るべきか」

年齢 いちばん確認したいもの
58〜59歳 60歳以降の再雇用給与の水準
60歳 高年齢雇用継続給付の対象か/💥 住民税ショック
61〜64歳 給与+給付金-社会保険料の手取り
65歳 給与+年金/在職老齢年金の判定(65万円)
66〜69歳 働きながら年金を受け取るときの実質手取り
70歳 厚生年金保険料が終わる影響/70歳以上被用者
70〜74歳 給与+年金+健康保険(医療費の窓口負担割合)
75歳 後期高齢者医療制度への移行

✅ 60歳になる前に会社へ確認したい7項目

ここは実務的な話です。定年の1年ほど前に、人事や総務へ確認しておくと安心です。

  1. 60歳以降の基本給はいくらか ── すべての計算の出発点です。口頭ではなく書面で確認しましょう。
  2. 賞与はあるか、何か月分か ── 総報酬月額相当額に影響します。在職老齢年金の判定を左右します。
  3. 再雇用の契約期間と更新の条件 ── 1年更新なのか、65歳まで保証なのかで生活設計が変わります。
  4. 65歳以降の継続雇用制度はあるか ── 65歳で終わりなのか、70歳まで働けるのか。ここを知らない方が多くいます。
  5. 社会保険の加入条件を満たす勤務時間か ── 週の労働時間が減ると、健康保険・厚生年金から外れる場合があります。外れると自分で国民健康保険に入ることになります。
  6. 高年齢雇用継続給付の申請は会社がやってくれるか ── 通常は会社経由ですが、確認しておきましょう。60歳時点の賃金証明も必要です。
  7. 退職金はいつ、どういう形で支払われるか ── 一時金か年金形式かで税金が大きく変わります。受取時期が翌年にずれると、その年の所得も変わります。

📌 加えて、年金事務所で「年金見込額の試算」をもらっておくことを強くおすすめします。ねんきん定期便だけでは、在職老齢年金の判定に使う基本月額まではわかりません。

⚠️ 実際の手取りが人によって違う5つの理由

  1. 賞与の有無 ── 総報酬月額相当額が変わり、在職老齢年金の判定が変わります。
  2. 健康保険の種類と地域 ── 協会けんぽは都道府県ごとに料率が違い、健康保険組合ならさらに別の料率です。
  3. 家族構成 ── 配偶者控除や扶養の有無で税額が変わります。加給年金の対象になる方もいます。
  4. 年金の加入歴 ── 厚生年金の加入期間と過去の報酬で、老齢厚生年金の額はまったく変わります。
  5. 繰上げ・繰下げの選択 ── 受給開始を早めるか遅らせるかで、年金額も在職老齢年金の判定も変わります。

🎯 まとめ|見るべきなのは「給与」ではなく「給与+年金+給付-負担」

最後に整理します。

「何歳まで働くのが一番得か」という、万人に共通する答えはありません。収入も年金額も家族構成も、人によって違うからです。

だからこそ、比べるものを間違えないでください。

給与 + 年金 + 雇用保険給付
- 社会保険料 - 税金 - 在職老齢年金による支給停止
= 最終的な可処分所得

この記事の要点を振り返ります。

  • 2026年度の在職老齢年金の基準は月額65万円。多くの再雇用者は対象外になった
  • 止まるのは老齢厚生年金だけ。老齢基礎年金は減らない
  • 高年齢雇用継続給付は最大10%に縮小。下がり方によっては10%に届かない
  • 70歳で厚生年金保険料はなくなるが、在職老齢年金の判定は続くことがある
  • 健康保険が変わるのは75歳。70歳ではない
  • 再雇用1年目は住民税ショックに備える

そして、忘れないでいただきたいことがあります。

65歳以降の働き方を決めるとき、お金は判断材料の一つにすぎません。健康、労働時間、家族と過ごす時間、仕事の内容、そして生きがい。これらは数字に表れませんが、手取りの数万円よりずっと大きな意味を持つことがあります。

制度を正しく理解したうえで、ご自身にとって納得できる働き方を選んでいただければと思います。

🔗 あわせて読みたい

📚 主な参考資料

⚖️ 免責事項

この記事は2026年8月時点の制度をもとにした、一般的な情報提供を目的としています。特定の働き方や商品を推奨するものではありません。

実際の年金額、社会保険料、所得税、住民税、雇用保険給付などは、年齢・収入・賞与・年金の加入歴・家族構成・お住まいの地域・加入している健康保険組合などによって異なります。記事中の試算は、条件を単純化したモデルケースです。

具体的なご判断にあたっては、年金事務所、ハローワーク、勤務先の人事担当部署、税務署、社会保険労務士、税理士などの専門機関へご確認ください。制度は今後改正される可能性があります。最新の情報は各公的機関の公式サイトでお確かめください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました